【デスク発ウラ話】コリーナ氏との会話で実感したトップ審判の視点

2020年03月02日 12時00分

 スポーツの世界で選手や監督、関係者を取材するのは日常茶飯事だが、唯一、取材がタブーとされているのが「審判」だ。サッカーの世界でいえば、試合で微妙な判定があったり、分かりづらい事象が起こった際には、ぜひとも審判に話を聞いてみたいものだが、それは許されていない。できることといえば、審判員を評価する「審判アセッサー」やマッチコミッショナーへの取材だが、それも簡単にはできない。それほどスポーツにおいて審判の保護というのは徹底されている。

 そんな中で、一度だけサッカーの審判を“取材”できたことがある。ただし、日本ではない。中村俊輔がイタリア・レジーナに在籍していた2002年12月のことだ。

 アウエーの試合でウディネに行った時、幸運にも大物審判と話をすることができた。ピエルルイジ・コリーナ氏。サッカーに詳しい人でなくても、スキンヘッドでギョロ目の審判といえばピンとくるかもしれない。イタリアのみならず、W杯や欧州CLの決勝などでも笛を吹き、1999年から5年連続で国際サッカー連盟(FIFA)の最優秀主審に選出。日韓W杯では、日本が敗退した決勝トーナメントのトルコ戦も裁いた世界的主審だ。現在はFIFA審判委員会の会長を務めている。

 出会いは偶然だった。俊輔のレジーナ戦に向けて前泊していたホテルがコリーナ氏と同じで、試合当日の出発前だった。話を聞くのもどうかと思ったが、世界的主審と話をする機会なんて今後二度とないと思い、意を決して話しかけた。

 すると、陽気なイタリア人気質なのか、何の問題もなく、見知らぬ日本人記者と話をしてくれた。これは取材ではなく、あくまで世間一般の雑談程度、という枠からは外れないように。でも聞いてみたいことは山ほどある。時間がなかったので、ありきたりだが2つだけ聞いてみた。

「ナカムラはイタリアで活躍できるか」

「日本人選手の印象は」

 すると、こんな話をしてくれた。

「申し訳ないが、選手個人のことは話せないよ。でもナカムラのことは知っている。彼がイタリアでプレーしているのには、きちんとした理由があるはずだ」

 やはり審判取材は難しい。そう思っていると、2つ目の質問には意外な答えをくれた。

「日本人選手というより、私は日本にとてもいい印象を持っている。もちろん、トルコ戦のことも覚えているよ。ひどい雨だったけど、日本の選手はみんなフェアだった。それにつられてトルコの選手もフェアに戦っていた覚えがある。日本のサポーターも素晴らしかった。あの雰囲気を見て、このW杯は成功だと感じた。ああいう国のチームは後になってもっと強くなるんだよ」

 半分は日本人記者への社交辞令だとしても、コリーナ氏がピッチの中だけでなく、試合全体の雰囲気を感じながらレフェリングしていたのだということも知った。トップ主審の視点というものの一端を見た感じで、うれしくなった。

 別れ際にコリーナ氏は「この話は記事にしないでくれ。あくまで君と世間話をしただけだから。私が審判を辞めたら構わないけど」と大きな目を見開いて、笑顔でホテルを後にした。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が本格的に導入され、サッカーが「機械の目」を頼る時代になったが、コリーナ氏の振る舞いを思い出すたびに、審判において、対話や気配りといったものの大事さを感じずにはいられない。

(運動部デスク・瀬谷 宏)