ハダカの長嶋巨人(34)

2017年08月28日 12時00分

【山本和生コーチの巻】

 

 長嶋巨人にあって、個人的に忘れられないコーチが内野守備走塁を担当していた山本和生さん。その後は二軍コーチや寮長などを務めたが、とにかく無口で地味。職人気質の人だった。

 

 九州工から熊谷組に進み、1972年のドラフト会議で巨人が3位指名。現役時代は守備固めでの出場が多く、第1次長嶋巨人では76年の長嶋巨人初優勝が決まった広島戦で、9回二死から三塁ファウルフライをキャッチ。ウイニングボールを手にした人としても知られている。

 

 コーチとしては、ノックの腕前は相当なもので、当時は試合前のシートノックを担当。選手が捕れるか捕れないかギリギリのところに打つノックは「和生さんのノックは日本一」と当時の巨人スタッフにとっては自慢だったらしく、山本さん自身も「狙ったところに打てなくなったらノッカーは引退するよ」とうそぶいていた。

 

 性格は曲がったことが大嫌いで、チーム内からは「ミスター・パーフェクト」と呼ばれていた。といっても完全試合の経験があるわけではない。食事ひとつをとっても、箸の握り方、置き方からしてこだわる「完璧男」というわけだ。

 

 そんな山本さんが寮長に就任することになったのが2000年のシーズンオフのこと。完璧男が「寮で悪タレどもが待っているかと思うと、今から楽しみだ」とニヤリと笑った表情は今でも覚えている。

 

 その後「規則を守れない者は一流のプロ野球選手になれない」という山本さんのスパルタ方式に寮生たちはびびっていたのだが…。「いい大人が門限なんておかしいですよ!」とこれに反発したのが上原浩治。「規則が守れないなら出て行け!」「ええ、そうさせてもらいますわ!」という上原退寮事件(01年)が起きたのも今となっては懐かしい。

 

 そんな完璧男が唯一、認めた男が02年のドラフト自由枠・木佐貫洋だった。

 

「アイツは人間ができている。あいさつもしっかりできるし、食事も好き嫌いなく何でも食べる。箸の上げ下ろしもキチンとしているし、門限もキッチリ守る。練習への取り組み方も文句ない。アイツに対してはこっちは何も言うことがないんだ。この数年間こんなルーキーはいなかったよ」

 

 最近の巨人はやれ野球賭博だ、泥酔飲酒騒動だと、選手の素行の悪さが問題となることも多い。山本さんはすでに巨人を離れてしまったが、もし今のチームに「完璧男」がいたら何を言うのだろう。きっと愛車ベンツのサイドバンパーが盗まれたとき、怒りをあらわにしたあの時の表情で、選手たちを厳しく叱責してくれたのではないかと思う。

 

(運動部デスク・溝口拓也)