サッカー界の「エリート育成」に疑問

2017年08月14日 12時00分

 夏の甲子園が盛り上がりを見せるこの時期、必ずと言っていいほど取り沙汰される話題の一つが「根性論」だ。朝から晩まで練習を行い、鉄拳制裁なんてどこでも行われていた昔のやり方は今では完全に否定され、科学的トレーニングのあり方や疲労回復の方法などが重視される時代。指導者も選手も考え方は変わり、限られた時間でどうすれば効率よく強くなれるか、という部分がクローズアップされるようになった。

 

 サッカーの世界でも各クラブや協会が運営するアカデミーやユースチームが主流になり、高校サッカー出身選手はそんな流れに押され気味。エリートを効率よく育成するやり方にシフトしつつあるが、これまでいろいろな取材をしてきた当方としては「本当にそれで強くなるの?」と疑問を持ってしまう。

 

 最近、最も日本代表が成功したのは2010年南アフリカW杯だが、そのメンバーは実に特徴的だった。ここに、代表メンバーの出身校を背番号順に挙げてみる。

 

(1)GK楢崎正剛(奈良育英=奈良)
(2)DF阿部勇樹(市原ユース)
(3)DF駒野友一(吉田=広島)
(4)DF田中マルクス闘莉王(渋谷幕張=千葉)
(5)DF長友佑都(東福岡=福岡)
(6)DF内田篤人(清水東=静岡)
(7)MF遠藤保仁(鹿児島実=鹿児島)
(8)MF松井大輔(鹿児島実=鹿児島)
(9)FW岡崎慎司(滝川二=兵庫)
(10)MF中村俊輔(桐光学園=神奈川)
(11)FW玉田圭司(習志野=千葉)
(12)FW矢野貴章(浜名=静岡)
(13)DF岩政大樹(岩国=山口)
(14)MF中村憲剛(久留米=東京) 
(15)MF今野泰幸(東北=宮城)
(16)FW大久保嘉人(国見=長崎)
(17)MF長谷部誠(藤枝東=静岡)
(18)MF本田圭佑(星稜=石川)
(19)FW森本貴幸(東京Vユース)
(20)MF稲本潤一(G大阪ユース)
(21)GK川島永嗣(浦和東=埼玉)
(22)DF中沢佑二(三郷工=埼玉)
(23)GK川口能活(清水商=静岡)


 ※学校名、チーム名は当時のもの

 

 23選手中、20選手が高体連(高校サッカー)組で、ユース組はわずか3人。実力のある選手だから日本代表に選ばれているわけだが、いわゆる「部活」経験者がチームの根幹をなしていたというのは決して偶然ではないと思っている。

 

 当時、大久保に聞いたことがある。部活を経験してきた選手と、そうでない選手に違いはあるのか、と。すると興味深い答えが返ってきた。

 

「俺がいた国見とか、松井の鹿実とか、今思えば本当に理不尽な練習が多かった。走ってばかりだったし、高校時代もこんな練習、意味あるのかって思ってた時もあった。でも理不尽な練習って根性がつくんですよ。もう走れない、って思ったところでももう一歩足が出る、みたいな。部活やってた連中はみんな同じような経験をしているはず。それって、今になって大事なことだったと気づくんですよ」

 

 もちろん、ユース組の阿部、森本、稲本の3人が根性論とかけ離れた選手というわけではない。むしろ、阿部は市原(現J2千葉)でイビチャ・オシム監督の指導を受け、部活組以上に走らされていたし、森本と稲本は欧州移籍で厳しい経験を積んできていた。厳しさというのは人を強くする。ボールを使った戦争ともいわれるW杯の舞台では、そんな経験がモノをいう。

 

 この話はスポーツに限ったことでもないだろう。社会人として仕事をしていく上で、苦しかったことやつらかった経験は後で必ず生きてくる。そういう「引き出し」が多いほど、ピンチを切り抜けられる。大久保が言うように「理不尽」は決して悪いことばかりではない。

 

 指導者による体罰や暴言は論外だが、本当に選手を「強い人間」に育てたいなら多少の“ムチャ振り”はあってもいいのではないか。「根性論」って古くさいかもしれないが、やっぱり人間の成長過程では欠かせないものだと思う。

 

(運動部デスク・瀬谷 宏)