歴史認識の違いから経済戦争に発展し、日韓関係が悪化している。

 そんなタイミングで7月末、初の海外旅行で東京へ来た韓国の大学生(24)によれば「ソウルから友達も何人か来てたけど、フォロワーに叩かれるのが怖いから、みんな東京で撮った写真はインスタとかに上げてなかった」という。

 灼熱の日中、汗だくの彼は浅草散策中に「何でハンカチ持ってんの?」と変な質問をしてきた。もちろん汗を拭くためだと教えると、「韓国人はハンカチを持たない。だからこれがはやる」と、ハンディ扇風機片手にニッコリ。後でネットで調べたら、確かに韓国ではハンカチをあまり使わず、涙や別れを連想するから贈り物としてもNGらしい。

 ソウルへはこの20年で20回近く行ってるが、韓国人との交流ではこんな新しい発見の連続だ。
 まずは「パリ パリ(早く 早く)」という国民性。一緒に飲みに行き、小さいグラスに焼酎を注ぎ合い、乾杯したら一気。それを延々と繰り返すのは、みんな早く酔っ払いたいからなんだそう。食事もわりと早メシだ。
 酔っ払って陽気になったときのはしゃぎっぷりは、日本人の比じゃない。夜遊びの熱量がハンパない。日曜朝の歓楽街・梨泰院は、酒の瓶やゴミが山のように散乱する。

 酔っ払い同士のケンカも壮絶。もう10年以上前だが、ついさっきまでテーブル席で和やかに飲んでいた仲間内でケンカが始まった。若者の一人がいきなり立ち上がり、焼酎の空瓶をテーブルの角で叩き割り、そのギザギザを友達に突きつけた。周りの制止も聞かず、店の外へ逃げる友達、それを追う若者…。

 そんな映画のような光景を見たのはそれきりだが、シラフでも韓国人はたまにアツくなる。

 普段は陽気で真面目なT(40)は3年前、タイ・バンコクでたばこポイ捨ての瞬間を警官2人組に見られてしまった。Tは見逃してとお願いするが、警官は「罰金2000バーツ払え」の一点張り。日本円で約7000円の罰金はイタい。顔をゆでダコのように真っ赤にし、5分近く懇願し続けたTは今にも“噴火”寸前だったため、私ともう1人の韓国人Cでなだめ、3人割り勘で罰金を払った。

 そのCとは特に仲がいい。年下の40過ぎで、焼き肉チェーンのオーナー。

 韓国人は年が1つでも違うと言葉遣いや態度が変わり、年下は年上を「ヒョン(兄貴)」と呼んで慕う。だが我々は外国人同士で言葉も英語だから、タメ口で話せる気楽な関係だ。ただC、昔は日本人にあまりいい印象をもっていなかったという。

 彼のおじいさんが日本統治時代、詳細は怖くて聞けていないが日本人にひどいことをされたらしく、それを子供のころ聞かされていたからだ。また、初めて東京を旅行したとき、サウナで一緒になった男性に「たばこ下さい」と頼んだら、ものすごい形相で「ノ〜!」と断られたのもショックだったとか。

 そうした先入観を乗り越え、韓国人と親しくなると、結構ベタベタな関係になる。

 ソウルへ遊びに行けば、時間の許す限り、Cの仲間も一緒にメシや飲み、遊びに付き合ってくれる。私が最年長なのに、メシや飲み代をおごってもらうこともしばしば。2年前、一行が来日しウチにホームステイしたとき、Cはお母さんのお手製キムチを10種類近く、タッパー詰めのお土産で持ってきてくれた。相当重かっただろうに…。あれほどうまいキムチはなかった。

 お土産といえば7月、ソウルでバーをやっている古い友達Oの相方(30)が東京に遊びに来たときは、空港免税店で大きい瓶の酒を買ってきてくれた。「重たいのに、何でこれ?」と尋ねたら、2月のソウル旅行のとき、私がバーでその酒を飲みまくっていたというのをOから聞き、それで手土産に選んだのだという。

 これまで接してきた韓国人はみんないい人で、日本人だからソウルで嫌な思いをしたという経験は一度もない。だが今月末のソウル旅行はちょっと心配だ。地元の友達と一緒なら安心だろうが、空港や食堂、道端などに一人でいて、見ず知らずの地元民から何か嫌なことをされやしないか…。自称・韓国通の私でさえそう思うほど、今の状況は恐ろしい。

 文化交流にも影響が出始めているが、国同士が険悪なときだからこそ、人同士はもっと触れ合うべきでは。直接接してみて、お互い分かり合えることもある。

(文化部デスク・醍醐竜一)