本紙のコラム「オジサンに贈るスージー鈴木のヒット曲講座」を毎週執筆しているスージー鈴木氏の人気が、もはやちょっとした”ブーム”と呼べそうなほど盛り上がっている。音楽評論家、野球評論家などさまざまな肩書を持つ鈴木氏だが、特に音楽評論の分野では数十年に一人の売れっ子ライターになっているのだ。

 2015年に「1979年の歌謡曲」(彩流社)を出版して注目を集めて以来、「1984年の歌謡曲」(イースト・プレス)、「サザンオールスターズ1978—1985」(新潮社)、「カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区」(KADOKAWA)、「イントロの法則 80’s〜沢田研二から大滝詠一まで」(文藝春秋)と、矢継ぎ早に新刊が出版された。今年になってからも、先月「いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界」(リットーミュージック)が出たと思ったら、今月末には「チェッカーズの音楽とその時代」(ブックマン社)の刊行が控えている。

 気づいた方もいると思うが、これらの書籍は全て異なる出版社から出ており、まさに引っ張りだこの売れっ子なのだ。

 鈴木氏が出演するトークショーは常にチケット完売だし、BS12で放送中の「ザ・カセットテープ・ミュージック」では、マキタスポーツと軽妙かつマニアックなトークを繰り広げ、こちらも好評を博している。

 なぜ鈴木氏がこれほど人気になっているのかを考えてみた。音楽の知識が豊富なのは音楽評論家なら珍しくもないのだが、鈴木氏の場合はヒット曲を極めて理論的に解剖し、しかもそれを素人にも分かりやすく解説してくれるのだ。その曲のどこが魅力的ですごいのかという着眼点も、従来の音楽評論とは全く違った視点から切り込んでおり、耳になじんでいた曲も、さらに新鮮に聴こえてくる。多くの音楽ファンに受け入れられているのには、そんな理由がありそうだ。

 ちなみに、これまでの著作やテレビ番組などで取り上げられている音楽は、基本的に過去のヒット曲。鈴木氏と同年代にあたる50歳前後のリスナーなら、ほとんど全部がよく知っている懐かしい曲だろう。タイトルを見ただけでサビのフレーズが頭に浮かんでくるはずだ。

 本紙での連載コラムがちょっと異なるのは、取り上げられるのが過去の曲ではなく、リアルタイムの“新曲”だということ。いわば、現在なら「2019年の歌謡曲」という感じだ。連載開始にあたって鈴木氏と打ち合わせさせていただいたときに、「若者ではなく、最新ヒット曲には疎いオジサン世代に、今売れている音楽のツボを分かりやすく分析する」というコンセプトが決まった。すっかりCDなど買わなくなってしまった世代の読者にも、息子さんや娘さんたちが好んで聴いている音楽に耳を傾けてみるキッカケにしてもらえれば、という趣旨である。

 しかしながら思うことは、例えば1979年の歌謡曲と2019年の歌謡曲を比べてみて、それらがどれくらい幅広く浸透しているかの違いだ。40年前と今とでは、テレビの音楽番組の数もずいぶん少なくなってしまっているので、積極的にCDを買ったりユーチューブで視聴したりしない限り、ヒット曲といえどなかなか耳にする機会は少ない。

「1979年の歌謡曲」を読んで、オジサン世代が”どれもこれも懐かしい”と感じたような思いを、今の若いリスナーは数十年後に2019年の歌謡曲に感じることができるのだろうか? まあ、若者にとっては大きなお世話なんでしょうな。鈴木氏の連載コラムは、今後もまだまだ続く予定なので、みなさんお楽しみに。

(文化部デスク・井上達也)