加藤鷹といえば、アダルト界のレジェンドである。

 体験人数は1万人以上、今ではポピュラーになった“潮吹き”を業界に持ち込んだパイオニアであり、女性を傷つけないために、常に深ヅメにされた指は“ゴールドフィンガー”という異名までついた。もちろん、私も、そんな加藤作品を堪能してきた1人。2015〜16年に連載を担当する幸運に恵まれたときは、ワクワクが止まらなかったことを今でも覚えている。

 実際、カリスマの話は目からウロコの連続だった。ある時、加藤はこう問いかけるのだ。

「土橋君はセックスのとき、女性の手をどうしてるの?」

「どうしてる!? いや、どうもしてないというか、まったく気にも留めませんけど…」

「それじゃあ、ダメ。いつも握っていなきゃ」

 どういうことか。加藤によると女性は手を握ることで安心感を得られるという。

「手を握ることで、人は小さいころにお母さんに手をつながれたことを思い出すんだ。それでホッとする。もちろん、男性もそうなんだけど、セックス中は女性の方がはるかに不安でいっぱいでしょ。自分の大事なところを傷つけられるのではないか、妊娠するんじゃないかってね。だから手を握ることで相手も安心してセックスを楽しめるってわけ」

 たしかに、加藤作品を改めて見返すと、すべてではないが、さりげなく握っていたりする。なるほど、カリスマは違うなと勉強になったものだ。

 だが、一方でこんな話もするのである。

「男優やってて言うのも何だけど、みんなAVっぽくセックスするよね。でも、それはどうなんだろう。オレたちはあくまでユーザーを興奮させるためにやってるだけでさ。無理な体勢になるのもカメラや照明の位置を気にしながらやってるわけだから額面どおり受け取らないでほしいんだ。どこまでもファンタジーなんだから」

 その最も大きな弊害は「女性をイカせなきゃいけないと思っていること」だと加藤は言う。

「イカせようとするあまり、Gスポットはどこだろうとか、クリをこうナメなきゃいけないのかって思うでしょ。まずそれが間違い。そう思えば思うほど不自然になっていき、女性をイカせられない。『○○しなければならない』ってところから解放されたとき、初めて本当のエクスタシーを味わうことができるんじゃないかな」

 う〜ん、何とも深い…。これはセックスに限らず、我々の日常生活にもあてはまるかもしれないと私はうなってしまった。

 こう語った加藤本人も男優を始めた当初は「イカせなきゃならない」という呪縛にさいなまれていたという。

「どんなテクを駆使してもイカない女性がいたんだよね。じゃあ、どうすればいいか? まずその義務感を捨てようと。もっと、相手のことを思いやろうと。そしたらすんごいエクスタシーになったんだけど。人はね、いろいろ先入観を持ちすぎなんだよ。それでがんじがらめになって、逆にダメになっているところがある。まあ、マニュアル本を発売しているオレが言うなって話なんだけど(笑い)」

 先述した手を握るというのも、「手を握らなきゃ」と義務感になるといけないわけだ。

 たかがアダルト男優、されどアダルト男優。その道の求道者のような加藤の金言に、私はただただうなずくしかなかった。

(文化部デスク・土橋裕樹)