プロ野球OB、特に名選手になるほどプライドは高い。当然、球界に携わるメディアがそういう方々と接する際は、現役当時の成績やエピソードなどが“一般常識”として頭に入っていないといけないし、第一失礼に当たる。

 知らずに接すれば、それこそ「俺を誰だと思っとるんだ!」「もっとワシのことを勉強してから来い!」となってしまうわけだが、それは全てメディア内での話。世間一般レベルでは「この人、誰?」となってしまうのは仕方ないことだ。

 それが数十年前の選手になってしまえばなおのことだ。長嶋茂雄氏や王貞治氏、野村克也氏クラスになれば、誰でも知っているだろうが、それ以外の方ではどうだろう。プロ野球ファン以外で、すぐに「あ、○○で活躍していた△△さんだ!」と言える人はほとんどいないのではないか。それがメジャーであっても…。

 つい数日前、ア・リーグ地区シリーズでのこと。ワイルドカードゲームを突破したヤンキースが、インディアンスと対戦するためクリーブランドに乗り込んだ。自分も田中将大投手の取材で同行していたが、ポストシーズンになると、レギュラーシーズン以上にセキュリティーチェックが細かく、厳しい。

 ポストシーズン用にあらかじめ申請した、球場内に入れる「クレデンシャル」と呼ばれるパス、さらにクラブハウスに入れるバッジの2つがないと取材はできない。しかも各所にセキュリティーがいて、通過するたびにクレデンシャルに記されたバーコードをスキャンしなければいけない。

 そんな折も折、ヤンキースのクラブハウス前でこんなことがあった。現場に居合わせていた某メディア関係者によると、ヤンキースのレジェンド、レジー・ジャクソン氏(71)がクラブハウスに入ろうとしたところ、セキュリティーのおじさんは誰かも分からず“バッジがない人はダメ”と入室を拒否してひと悶着。慌てて飛んできた関係者になだめられ、クラブハウスに入ったという。

 レジー・ジャクソン氏といえば、アメリカ野球殿堂入りはもちろん、ワールドシリーズMVPを2度も獲得。その驚異的な勝負強さから「ミスター・オクトーバー(10月)」の称号を持つレジェンドだ。彼の背番号44はヤンキースの永久欠番となっている。

 当然、本人も“10月といえばオレ様だろう”の心境だっただろうが、まさかの入室拒否。それこそ「俺を誰だと思っとるんだ!」となったに違いないが、現役を引退したのは約30年前。当然、容姿も変わっているし、やはり一般レベルではそこまで分からないのだろう。

 球場のセキュリティーを務める以上、OBの顔は把握すべきの意見もあると思うが、それはさておき、メジャーでもこういうハプニングがあることに、ちょっとニヤリとしてしまった。

(運動部主任・佐藤 浩一)