東京・高田馬場で行列が絶えないローストビーフ丼の店「レッドロック」へ先日行ったら、台湾や韓国の若者たちがたくさん並び、写真を撮りまくっていた。アジア系観光客のSNS効果はすごい。そういえば以前、日本橋でいつも大行列の天丼店「金子半之助」を教えてくれたのも、東京観光で台湾から来た20代の友達だった。

 若い台湾人観光客はコスパが高く、おいしい店探しに貪欲だ。とんかつが大好きな20代カップルに情報収集を頼まれ、食べ比べに付き合わされたこともある。ちなみに私のイチオシは“とんかつ激戦区”高田馬場の「とん久」だが、彼らが絶賛したのは新宿の「豚珍館」。

 一方、私と同世代のアラフォー台湾人は、食にそれほど興味がない者ばかりだ。東京に来る時も“食”の事前リサーチはしてこない。自分たちで食べるときはファストフードやコンビニで済ませ、私と一緒に食事する時も「どこでもいい」「何でもいい」しか言わない。

 だから、意地でも彼らを安くてうまい店へ連れていく。カレー、ステーキ、定食屋、B級グルメ、焼き鳥、居酒屋…。これまで蓄積したデータをもとに店を選び、うまいと喜んでもらえたら、ちょっとうれしい。

 台湾の日系企業で働く友達が先日、東京初出張だったので、仕事帰りにマグロがウリのすしチェーン「板前寿司」へ連れて行った。赤身、中トロ、大トロの違いも知らなかった彼は「こんなうまいツナ初めて食べた」と目を丸くしていた。ただ、彼の味覚はあてにならない。やっぱり“食”には関心がなく、遠距離恋愛している韓国人の恋人がいるのに、おいしい韓国料理を「スープ系ばっかりで辛すぎる」と嫌っているからだ。

 また別の台湾人を昔、値段表示のないすし店に連れて行った時も、うまそうに食べてはいたが、今思うとネタの新鮮さやシャリとのあんばいまで分かったかは疑問だ。

 だが、ちょっと待て。逆に私が台湾へ行ったときはどうか?

“台湾の玄関”台北へはもう何十回も行っているが、自分的にはどんな食堂や屋台でもまずハズレはなくおいしい。激臭を放つ臭豆腐も今では大好物だ。われわれの口に合う食べ物が多いから、台湾は日本人の人気旅行先になっているのだろう。

 ただ、数少ない美食家の現地友達に言わせれば、例えば観光客に大人気の「鼎泰豊」より安くてうまい小籠包店はいくらでもある。西門町の立ち食いB級グルメ「阿宗麺線」も絶えず観光客でごった返しているが、「あそこは普通。もっとうまい麺線がある」という。

 そういえば私も、台北で地元友達と食事する時は「お前がいつも食ってるとこでいいよ」と他人任せだ。すると友達は大体、彼らなりのセンスでお勧めグルメを探して“食のおもてなし”をしてくれる。おかげで、味も値段も雰囲気もいい、とっておきの店をいくつか開拓できた。

 小籠包なら中正紀念堂近くの「杭州小籠湯包」。食通友達の家族が西門町で営んでいる、イカのとろみスープと焼きビーフンだけ売る「正老牌ヨウ魚平」(ヨウは魚ヘンに尤)。やはり西門で夜中しか営業していないにもかかわらず、いつも行列ができている海鮮食堂「阿財虱目魚肚」。あまり教えたくないが、これが今のところ私の“台北めし”ベスト3だ。

 結局、食べ物の好き嫌いがない人なら、異国で食べるものは何でもおいしいと思えるのかもしれない。そして、食事をもっとおいしくする“スパイス”は友達。国や味覚が違っても、気の合う仲間と楽しくテーブルを囲めたら、どんな料理でもうまいと感じるはずだ。

(文化部デスク・醍醐竜一)