球場の駐車場などで、取材対象が現れるのを待つのはよくあることだ。そして、その時間が長くなるほど記者同士でブツクサ言い合うのもよくあることだ。そんなとき、たまにこんな会話になることがあった。

「今までの、こういう『待ち時間』を全部集めたら、何日分くらいになるんだろうな」

「こんな時間あったら、何か別のことに使いたいわ」

 要は「不毛だ〜」という愚痴なのだが、考えれば考えるほどむなしくなるので、ある時からこう思うことにした。

「記者の仕事は『待つ』こと。取材、原稿は二の次」

 もちろん、実際はそうじゃないが、要は気の持ちよう。おかげで待ち時間も昔ほど苦ではなくなった。ちなみにどうやって暇をつぶしていたのか。今ではスマホという格好の“暇つぶしアイテム”があるが、まだガラケーがメーンだった時代、自分がよくやっていたのが“一人遊び”だった。

 特に楽天担当時代、Kスタ宮城(現・コボスタ宮城)の駐車場で選手を待っている際によくやったのが、ごみで落ちてたビニール袋を地面に落ちないようにひたすら蹴り上げ続ける“リフティング”だった。あとは目をつぶって、タイヤ止めのブロックを綱渡りのように渡り歩き、どこまでいけるか試してみたり…。確かに暇つぶしもあるのだが、このときは厳しい寒さをしのぐためでもあった。

 ある日、雪が降るなか田中将大投手を単独で取材しようと待ち続けたことがあった。高校時代からスターだった田中投手には、いつも複数のメディアがついて回っており、自分はなかなか取材できなかった。しかも当時は野村克也監督という“大スター”もいたため、そちらに多くの時間を費やさざるを得ないという事情もあった。

 その日はシーズンオフ。極寒なうえ、駐車場には田中とスタッフ数人の車しかなかったためメディアはゼロ。1対1で話が聞ける絶好のチャンスだった。しかし、ケアなどで時間がかかったのか、なかなか田中投手は現れず、結局取材できたのは3時間後だった。そのときも「待つのが仕事」と言い聞かせ、一人遊びで体を温めながら待ったのを記憶している。

 それから数年たったある日、後任の楽天担当記者が苦笑いでこんなことを言ってきた。「この間、田中に言われましたよ。『前任者は雪の中、僕を3時間も待っていましたけどね』って」。どうやら、練習後の田中投手に「取材をしたいのだが、何時に終わるか?」と聞いたところ、即座にこう言い返されてしまったという。

 選手がお願いしたわけでもなく、記者が勝手に待っているわけだから、そこで何時間待たれようが、正直知ったこっちゃないはず。しかし一方で、こうして律義に覚えてくれる選手もいる。

 今、田中投手はメジャー3年目のシーズンを迎え、自分も彼を追いかけ3年目のアメリカにいる。朝、クラブハウスが開くまでの待ち時間、ふとそんなことを思い出した。

(運動部主任・佐藤浩一)