入居者3人が昨年末の短期間にベランダから転落死した川崎市幸区の老人ホームと同系列の施設で、入居者への虐待が次々に発覚している。これは転落死によって、同ホームの系列に注目が集まったから発覚しただけのことで、他の老人ホームでも介護職員が利用者に過酷な対応をしていることが多いようだ。

 ある介護福祉士は「介護職員は育ちのいい優しいコがボランティア精神で働いている一方で、他の職業にあぶれて仕方なく働いているって人もいるのが現実です。給料が安く、労働時間も長く、過酷な肉体労働と精神労働を強いられます。精神的に追い詰められる人は多いです」と語る。

 しかも老人ホームは国からの社会保障費において、構造的な欠陥があるという。ある老人ホーム幹部はこう指摘する。

「介護認定は入院したついでになされることが多く、実際よりも重度に認定されることが少なくありません。介護度が上がると料金も上がるので、社会保障費の無駄、介護業者にとっては売り上げ増になりますから。車椅子移動で会話ができなかった要介護5の利用者も、日々の歩行訓練と話しかけで介護度3にまで回復した事例もあります。ただ、介護度が下がると売り上げ減になります。きめ細かく親身に一人ひとりの利用者に接すると、利用者と介護スタッフの比率でコストパフォーマンスは悪くなります」

 介護度を下げて、利用者や利用者家族に喜ばれ、社会保障費の削減に貢献しても売り上げ減という皮肉なことになる。一方、介護度が上がると、介護費や医療費が増えて、社会保障費が増える負のスパイラルとなる。

 つまり老人ホーム経営の勝ち組は、介護度が高い利用者を悪徳医師と結託して食い物にし、職員への給料も安く、長時間労働を強いるブラック企業となる。

 また同幹部は「ウチの施設でも、老人の暴言で泣いてしまう女性職員もいます。また人生経験豊富な一般企業の元社長などが、定年退職後にボランティアとして介護の仕事をしたら、『あんたは詐欺師か』『刺し殺すぞ』など暴言シャワーを浴びて鬱になりました」と語る。

 老人ホームでは、20人を1人で相手することもある。中にはわがままだったり、暴言モードの利用者もいる。並の精神力では耐えられないだろう。

 歌舞伎町ホストのケンイチ氏は「メンヘラ女性に追い込まれたり、理不尽な客にいびられたり、ヤクザに恫喝されたりしても平気なホストぐらいじゃないと耐えられないでしょうね。元ナンバーワンホストや銀座ホステスが介護業界に転身して出世している事例があります。暴言を吐く老人のご機嫌を取りながら、ニコニコするのはホストやホステスみたいなスキルが必要ですから。僕が知る老人ホームの社長が近所の居酒屋で、他の介護施設で働いていた元ホステスの女性をスカウトしてきて、トラブルメーカーの認知症老人を抑えるのに大活躍している例もあります」と言う。

 過酷な仕事なのに現場職員の給料は安い。老人の暴言は思った以上に心をむしばむ。職員の待遇が上がらなければ耐えられないだろう。

(文化部デスク・三浦伸治)