全国で暴力団排除条例が徹底され、一般企業による暴力団への利益供与、密接交際が厳禁となった“今だから書ける”ことがある。

 かつて、有名百貨店は暴力団の格好の稼ぎ場だったことがある。どうやって食い物にするのか、その手口がエグい。

 暴力団員がデパートに勤務し、顧客名簿を管理する立場にまでなり、詐欺グループや中国人窃盗団などに、その顧客名簿を横流しするのだ。だが、なぜ暴力団員がデパートなどの一般企業、いやむしろ優良企業に就職できるのか。きっかけはごくごくささいなことだ。

 元組長は「たとえば、女にデパートでスカーフを買ってこさせる。きちんとレシートももらう。その後、別の狙ったデパートにカップルとして行く。男はちょっと離れたところにいて、女にはスカーフ売り場でキョロキョロさせたり挙動不審にふるまわせる。そして、買ったスカーフと同じスカーフが売っている陳列棚にサッとスカーフを紛れ込ませ、次に店員に見えるか見えないかのギリギリの感じで、そのスカーフをバッグに入れさせるんだ」と明かす。

 当然、店員は万引きを疑い、女に注意しようと近づく。店員が女に声を掛けてきたら、シナリオ通りにことが進む。

「とにかく、女には『すみません、すみません』と挙動不審な感じで言わせる。そこに男が現れ、女に『お前、何したんだ? 万引きじゃねーだろーな。悪い病気はまだ治ってねーのか』と怒鳴る。女は男にも『すみません、すみません』。男は店員に『すみませんねぇ、うちの女には悪い癖があって』と言いながら、女のほおにバシーンとビンタを食らわす。他の客は驚くよな。店員は『ここでは何ですから』と、店の奥に連れてってくれる。そしたらシメたものだ」と元組長。

 当然、スカーフは別のデパートで購入したもので、レシートもある。今度は一般客の前ではなく、店員とカップル2人だけの“密室”だ。

「いくらでも、店員を脅せるわけだ。上司を呼ばせて、『お前、俺の女に恥かかせやがって。どうしてくれるんだ』と言えば、商品券をすぐにくれる。でも、それじゃあ、まだまだ。『こちらも女が挙動不審なもんで、誤解させてしまいまして』と下手に出る。そして、落としどころとして『うちの女、デパートで働くのが夢でして、バイトでいいんで、使ってくれませんか』。ここまでは、あくまでヤクザと分からないようにやる。昔はこれで女をバイトでもぐりこませることができた」(同)

 もちろん、女は仕事などまともにするわけはないが、デパートのバックヤードに出入りすることによって、顧客名簿をコピーすることができる。

「あとは『顧客名簿を流されたくなきゃ、うちの若い衆を1人雇ってくれないか? できなけりゃ、本社にヤクザの女をこきつかったうえ、顧客名簿までくれたって密告するぞ』でも何でもいい。昔はこれで、店長権限によって1人くらいコネ入社させてくれた」(同)

 暴力団はお歳暮、お中元や慶弔でのやり取りが多い。その“ヤクザ”店員はあっという間に、売り上げトップになる。そして、要職に就くことになり、超優良顧客の対応もすることになる。客がいつ旅行に行くか、その家の警備システムなどの情報の把握もできる。泥棒させるのは簡単。あくまで一昔前の話だが、とにかく暴力団の怖さを知ったエピソードだった。

(文化部デスク・三浦伸治)