今年も何事もなく2月14日が過ぎていった。現場記者だったころはキャンプ地のスナックのお姉さんが「ちゃんと用意しとったがやき」とか言いながら、どう考えてもスーパーで買ったようなチョコレートをプレゼントしてくれたりしたものだが、今ではそんな営業を受けることすらなくなった。

 寂しいオッサンのボヤキはさておき、今年も2月15日発行のスポーツ紙各紙は、各チームの人気選手たちがもらったチョコレートの数を報じていた。もちろん、うらやましいなんて思わない。カロリーの高いチョコなんてダイエットの敵だ。

 と、自分を慰めていたら、ふと18年前のバレンタインデーを思い出した。ダイエー(現ソフトバンク)担当として訪れていたキャンプ地の高知での出来事だ。

 練習終わりに投手コーチの村田兆治さんを取材していると、割と美しい女性2人が小さな紙袋を持って近づいてきた。

「お話し中にすいません。私たち村田さんのファンで福岡から来ました。お口に合うか分かりませんけど、よかったら召し上がってください」

 丁寧な言葉遣いからして年齢は30歳前後か。村田さんは笑顔でプレゼントを受け取り「わざわざ遠くまで来てくれてありがとうね」と、これまた丁寧にあいさつした。

 ここで終わりなら、ただの“キャンプ地あるある”だ。遠いキャンプ地まで足を運ぶファンは少なくないし、バレンタインデーにチョコレートをプレゼントするなんて、珍しくもなんともない。

 中身がチョコレートでなかったことが判明したのは、日が沈んだ後だった。チーム宿舎内に設けられたプレスルームで原稿を書いていると、村田さんがジャージー姿で現れ、こうつぶやいた。

「さっきプレゼントされたの、チョコレートだと思って開けたらウニの瓶詰めだったんだよ。何か特別な意味でもあんのかなあ?」
 いまだ謎のままである。

(運動部デスク・礒崎圭介)