参院選期間中、何度もうならされたのは元NHK職員だった立花孝志代表が率いる「NHKから国民を守る党」の選挙戦だ。

 NHKのスクランブル放送化のワンイシューだけで、6年前に誕生した同党は“選挙の常識”を覆し続けた。

 まず破ったのは供託金の壁だ。参院選では選挙区出馬で300万円、比例区で600万円の供託金が必要になる。一定の得票がなければ、没収され、売名行為でやみくもに立候補するのを防ぐために設けられた制度だ。

 比例区に候補者を擁立する政治団体は珍しくないが、N国党は比例区に4人、小選挙区に37人の計41人を擁立。供託金の額は1億3500万円にもなる。

 よほどのお金持ちかスポンサーでもつかなければ無理だが、立花氏は約5000万円を党費から、約9000万円を借金し、捻出していた。その借金もユーチューブで募集したところ、瞬く間に集まり、しかも無利子という。

 小選挙区に37人も擁立したのは、選挙の盲点を突いたからだ。これまで国政政党を目指す政治団体は、比例区で得票率2%以上、目安で約100万票の獲得を目標としてきた。N国党が狙ったのはもう一つの政党要件を満たす条件である「選挙区での2%以上得票」だった。

 今回の参院選では事前に野党が統一候補に一本化し、共産党も相乗りしたことで与野党一騎打ちの構図となった。各選挙区で2%以上を獲得するハードルが大きく下がり、N国党は1人区を中心に候補者を立て、NHK不信も相まって、無党派層の受け皿となる“第三極”に化けた。もちろん立花氏は計算済みで、比例区では得票1・97%と0・03%届かなかったが、選挙区ではまんまと2%以上をクリアした。

 NHKで放送された政見放送もハチャメチャだった。これまでも故内田裕也さんやマック赤坂氏などが物議を醸したが、立花氏はNHKの局アナ不倫スキャンダルを徹底糾弾すれば、他の候補者は何もしゃべらない無音形式、ショートコント形式など、計38パターンものコミカルな政見放送が全国でオンエアされ、ネット炎上して話題となった。

 候補者の中には出馬した選挙区に縁もゆかりもない落下傘も多かった。大分選挙区から出馬した牧原慶一郎氏は「大分にはNHKの政見放送を収録に支局に一度行っただけ。あとはボランティアがポスターを数か所に張ってくれた」と街頭演説はおろか実質、選挙活動はゼロ。それでも地元紙の1面では「候補者の横顔」で人物紹介され、「数年前までニートだった私が、新聞の1面を飾るとは」と本人も驚くばかりだったが、得票率4・39%を叩き出していた。

 立花氏自らが広告塔であるため、各選挙を渡り歩き、「選挙は売名行為」と言ってはばからない。その一連の手法は批判も多い。立花氏は「ふざけていると言われるが、インパクトを与えないと存在を知られない。イメージがマイナスになっても必ず回復させる自信がある。まず戦うための基礎を作らないといけない」と話す。要は政党を大きくするためのアプローチが従来とは全く異なるということだ。

 れいわ新選組とともに政党要件のない諸派の政治団体が比例区で議席を得たのは現行制度では初。選挙の王道といわれたドブ板選挙はどこへやら。「NHKをぶっ壊す」と叫んだN国党の候補者たちは、既存の選挙システムをぶっ壊してしまったとも言える。

(文化部デスク・小林宏隆)