2大会ぶりの優勝を目標に掲げていたなでしこジャパンは、フランス女子W杯決勝トーナメント1回戦でオランダに1—2で敗れ、戦いの幕を下ろした。欧州勢の大躍進や高倉麻子監督(51)の選手選考のあり方など様々な敗因が取り沙汰されているが、絶頂期のなでしこを知る身として、今大会の露出の少なさがどうしても気になった。

 もともと、なでしこジャパンというチームは不遇の時代を過ごしたこともあり、何とかメディアに取り上げてもらおう、という姿勢が強かった。川淵三郎氏が日本協会会長を務めていた時代、チームに「なでしこジャパン」という愛称をつけたのが始まりで、ドイツ女子W杯で優勝した佐々木則夫監督は何とか女子サッカーの魅力を知ってもらおうと、メディアを最大限利用した。

 佐々木監督は基本的に練習をすべてメディアに公開した。女子サッカーの宣伝ということはもちろんだが「見られている、という意識を持つことで緊張感も生まれる。試合になれば、練習の比じゃないほどの人たちに見られるわけだし」と、多くの目が集まることへの「耐性」も鍛えていた。

 私が記憶する限りで練習が非公開になったのは、仙台での米国との練習試合、さらに仙台育英高との練習試合、あとはロンドン五輪前に何度かあったくらいだ。だが、これも対戦相手側からの要望や施設の問題が理由であって、監督の意向ではなかった。

 ロンドン五輪前のフランス合宿ではPK戦の練習も普通に公開し、大黒柱のMF澤穂希がPK嫌いで本番でも絶対に蹴らないという事情も筒抜け。もし、そこに他国の諜報部隊がいたら他の選手のクセもバレていたはず。だが、選手たちも全然気にしていなかった。報道陣のほうから「監督、これはさすがに非公開にすべきだったのでは」と進言したほどだったが、監督は「面白い記事が書けるでしょ」と意に介さなかった。

 それに比べると、今大会は「非公開」のオンパレードだった。今回は「各チームは次の試合までの間、1回だけ練習を完全非公開にできる」という規定が加わったためだが、高倉監督はこれを最大限活用した。大会前「まともにやったら勝てない」と話していたため、秘策や奇襲を企てるにはいい条件だったのだろうが、実情はケガ人が多すぎて満足な練習ができていないことを明かしたくなかった、というように見えた。

 U—17、U—20W杯で優勝した若手選手たちに、それなりのたくましさはある。だが、A代表での真剣勝負の中では、年代別大会の実績が役に立たないことが今大会で証明された。もちろん、そうしたメンバーを選出した高倉監督がすべての責任を負うわけだが、来年の東京五輪は自国開催ということで、注目度は今回のW杯をはるかにしのぐ。「どこにもマネできないサッカーをする」と話した指揮官だが、選手たちの「耐性」を育てる環境づくりを考える必要があるのではないか。

(運動部デスク・瀬谷 宏)