【長嶋一茂の巻・その2】

 最近の取材現場では「神対応」という言葉がよく使われるという。どんなに忙しいときでも嫌な顔ひとつせず、しっかり受け答えしてくれる人のことをそう言うのだそうで、答えにくい質問や意地悪な質問でも「事務所を通してください!」なんて言わずに、ちゃんと笑顔でコメントしてくれる人…。確かに取材する側からすれば「神」なのかなとも思う。

 だが、自分にとっての「神対応」は、そうではないような気がしている。たとえば巨人時代の長嶋一茂さん。取材中に罵詈雑言を浴びせられたことは日常茶飯事だったが、それでも一茂さんを取材した日々は楽しいものだった。

 あれは「ヒット単価を計算すると、一茂は日本一の高給取り」という記事を書いた翌日のこと。その日は緒方耕一さんの結婚式の日だったのだが、全日空ホテルの地下1階の控室に呼び出され、衆人環視の中で大説教を食らった。

「おい溝口! またこんな記事書きやがって! こんなこと誰が言ってるんだ!」(一茂)
「記事にあるようにXさん(実名)がそうコメントしました」(記者)
「おいX! 本当か!?」(一茂)
「そんなこと言ってません!」(近くに呼び出されていたX)
「えーーーーーっ!」(記者)
「お前の来世はゴキ●リだ! オレが踏み潰してやるから覚悟しとけ!」(一茂)

 それから「一茂キャンプで門限破り発覚!」という記事を書いた翌日は…。

「おい溝口! 誰がちくったのか教えろ!」(一茂)
「それは言えません!」(記者)
「(記者の肩に手を回しながら)なあ溝口よ。お前とオレが手を組めば、面白い記事がたくさん書けると思わないか?」(一茂)
「うーん…。やっぱダメです!」(記者)

 そうかと思えば、打線が沈黙して負けた試合の後、一茂さんに話を聞きにいくと…。

「まあ、あれだ。すし屋で大トロを食って帰りたいところを、イカを食って帰ればいいんだよ。打者というものは誰でも大トロを食べたいわけ。ホームランを打って帰りたいんだよ。でも、最後に大トロを食って帰りたいところをイカでガマンする。自分を殺してチームバッティングをすることが大事なんだ」と、意味不明な“すし屋理論”を真顔で展開してくれたり…。

 こちらもひどいことを書きまくったことには違いないが、それでも無視されることはほとんどなし。どんなに激怒しようとも次の日はケロリとして「東スポはウソでもいいから、もっと面白い記事を書かなきゃだめなんだ!」と言ってくるから「ウソは書いてませんよ!」とやり合うのが一茂さんとの会話のパターンだった。

 とにかくメリハリがあって、自分にとっての「神対応」は、まさに一茂さんだったよなあ…と思い返している。

(運動部デスク・溝口拓也)