本田圭佑があえて口にした「造反発言」の意味

2016年10月24日 12時00分

 本田圭佑(30=ACミラン)という選手はどこか憎めない男だ。というより、同じ男から見て、こんなにわかりやすい男はいない。

 2008年北京五輪直前のトゥーロン国際大会(フランス)に出場するU—23日本代表メンバーに選ばれた本田は、所属のVVV(オランダ)から移動してきてマルセイユ空港でチームの到着を待っていた。その取材に同行した記者たちがチームより先に到着ロビーに出てくると、一人ひとりと握手。ニコニコしながら「よろしくお願いします」とあいさつして回った。

 こんな姿を知っているだけに、日本代表の中心選手になって「オレ様発言」をしたり、カッコつけてフェラーリで空港に現れたりしても、それが「素の本田圭佑」ではない。子供が自分を大きく見せようと“背伸び”をしているようなもの、というのが私を含めたメディアの共通認識だった。

 彼の発言は表現こそきついが、だいたい的を射ていた。だから多くの記者が彼に群がる。そんな空気を彼も嫌がらない。彼自身、発言は計算ずくのもので論理的。それだけに、発言をめぐって失敗はしないと思っていた。

 そんな雰囲気で迎えた北京五輪は1次リーグ3戦全敗で敗退。3戦目のオランダ戦で敗れた直後に“事件”は起こった。当時の反町康治監督が試合前に「オランダはうまいから深追いしなくていい」と前線からの守備を求めなかったことを明かした上で「それはごもっともだけど、俺の考えは違った。そんなに怖くない。圧倒できると思ったから、前から(守備をして)いこうと。他の選手とも話して、それでいこうということになった」と監督の指示とは逆のプレーをしたことを堂々とメディアの前で話したのは有名な話だ。

 サッカーに限らず、スポーツでも一般社会でも監督(上司)の言うことは絶対。当時は、話を聞きながら「おいおい、そんなこと言っちゃって大丈夫なのかよ」と思っていた。3連敗のショックも相まって、私を含め、ほとんどのメディアが書いた記事は「本田が造反」というものばかり。だが一方で、ここまで堂々と話すことには何か裏がある、との思いも捨て切れなかった。

 当然、この本田の発言と行動にはサッカー界だけでなく、一般の五輪ファンからも批判が集まった。メディアも批判の的となった。「本田が試合直後にそんなことを言うわけがない。メディアの書き方には悪意がある」と。批判は甘んじて受け入れるが、一方では本田の真意が気になって仕方なかった。
 男子が帰国の途に就いてから、反町ジャパンの担当記者たちは、私を含め、勝ち残っていたなでしこジャパンの取材に回っていた。そんなある日、日本協会関係者が血相を変えてメディアのもとにやってきた。

「おい、圭佑は本当にあんなこと言ったの? 圭佑は『言ってない』って言ってるぞ!」

 これには我々は一斉に反発。証拠はいくらでもある。ある記者は取材ノートを差し出し、ある記者はICレコーダーの録音を聞かせた。これには協会関係者も納得するしかなかった。

 そこで一つの仮説を立てられた。「もしかしたら、本田はあの時、何の計算もせずに思ったことを言っちゃったんだ」と。大胆さと慎重さのバランスが絶妙であるはずの本田が、初めて感情のおもむくままに発言してしまった瞬間だったのかもしれない。そう考えると、やっぱり憎めないヤツだなと笑うしかなかった。

 そこから8年。本田は押しも押されもせぬ日本代表の「エース」となり、発言の重みも増した。11日のロシアW杯アジア最終予選オーストラリア戦では1トップを任されたが、不発。試合後、ハリルホジッチ監督の起用法に異議を唱えた。だが、今回の発言は“うっかり”には聞こえない。同じ「造反発言」でも8年前とは大きく違う。

 今、日本代表は人気も頭打ちとなり、過渡期を迎えている。本当にロシアW杯に出場できるのか。そもそもハリルホジッチ監督でいいのか。本田があえて口にした「造反発言」の意味を、とりわけ日本協会のトップには敏感に感じ取ってもらいたいものだ。

(運動部デスク・瀬谷 宏)