ハダカの長嶋巨人(27)

2016年09月19日 12時00分

【江藤智の巻】

 第2次長嶋政権下、最も盛り上がったシーンの一つといえるのが2000年2月12日「永久欠番復活」の瞬間だろう。

 場所は宮崎キャンプの「A球場」。観客席がほとんどない小さな球場に、この日のキャンプを見に来た5万5000人のファンの大半が押し寄せた。やがてさっそうと現れた長嶋さんが、ウインドブレーカーを脱ぎ捨てると、その背中には栄光の背番号3が…。あの時の「うおおおぉー」というどよめきは、今も耳に残っている。

 この年の長嶋さんは広島からFAで獲得した江藤に「33」を譲り、自身は永久欠番「3」を復活。その江藤に個人ノックを実施するこの日が、背番号を披露する初めての日だった。時間にして45分、223本もの猛ノックを放った長嶋さんにキャンプはこれ以上ない盛り上がりとなったが、あれは江藤にとっても、忘れられないシーンとなったことだろう。

 江藤といえば、どこにでもいそうな人のいいおじさんイメージ。実際に取材で接してみても大きなギャップはなく、年下の選手にも敬語を使ったりすることもあった。巨人移籍後、初対面だった松井は最初のあいさつで「頑張ってください」と江藤に言われて目を白黒させていたっけ。

 だが試合になると、とたんに強打者に変身する。取材した中で印象的だったのは、江藤の「オズマ打法」について話を聞いたときのことだ。「オズマ」とは、漫画「巨人の星」に登場する外国人選手のことで「見えないスイング」を得意技にしたスラッガー。江藤のスイングスピードは当時の球界では随一と言われていた。

 球団専属のベテランカメラマン・小野寺広報から「江藤は始動からインパクトまでのスピードが、清原や松井より速いんだ。たいていの打者は手元がピクリと動いた瞬間にシャッターを切れば、インパクトの瞬間に間に合うんだけど、江藤はそれでは遅すぎる。これまで長い間、いろんなタイプの選手を見てきたが、江藤のスピードはナンバーワンだよ。あの〝見えないスイング〟には苦労させられているんだ」という話を聞いて、江藤に振ってみたところ…。

「タイミングの取り方はいろいろ工夫してますけれど、インパクトまでのスピードが速いということは、ボールを手元まで見ていられるということかな。自分ではあまり意識したことないんですよね」とイマイチ“すごさ”を自覚できていないようだった。

 それでも驚異のスイングスピードは、広島時代から積み重ねてきた練習のたまものなのだろう。

 今の巨人の若手選手に「江藤2世」が出てくることを楽しみにしている。

(運動部デスク・溝口拓也)