小池百合子氏(64)の圧勝で終わった東京都知事選は、過去最多となる21人もの候補者が乱立した。主要候補といわれた3人以外にも個性派がひしめく熱い夏だった。

「あの老人は何者?」と街頭演説で聴衆を引きつけたのは山口敏夫元労相(76)。政界のプリンスとしてお茶の間でも人気を集め、1984年の中曽根内閣では、労相に就任したものの95年に東京二信組問題で逮捕。以後、長きにわたった法廷闘争の末、06年に実刑判決を受け、過去の人となっていた。

“社会復帰”ともいえた都庁での出馬会見に現れた山口氏は顔はふっくらとし、かつての眼光鋭かった面影はない。さらにジャージー姿にあぜんとさせられたが、生き馬の目を抜く永田町を渡り歩いてきた話術はサビついてはいなかった。「認知症の初期」とユーモアたっぷりに自虐ネタを織り交ぜながら、東京五輪問題を軸に細かい数字から背景事情までそらんじてみせたものだから二度ビックリだった。

 選挙後は「五輪問題が焦点になって、少しは役目を果たせたかな」とご満悦の表情。もっとも、出馬時に「マック赤坂だけには負けたくないな」と漏らしていた票数は1万5896票で赤坂氏の約5万票に及ばず。一度止まってしまった時計の針を動かすには、時間が足りなかったようだ。

 政見放送で話題をさらったのは、元NHK職員の立花孝志氏(49)と自営業の後藤輝樹氏(33)の2人。立花氏は「NHKをぶっ壊す」と古巣の不祥事を次々と糾弾し、ネット上での動画再生回数は30万近くまで迫った。

 立花氏はNHK問題をクローズアップさせると同時に、もう一つ狙いがあった。実は今話題のユーチューバーでもあり、ほぼ毎日更新している自身の動画もこの政見放送を境に再生回数はうなぎ上りとなった。まさに一石二鳥の都知事選だったワケだ。

 一方、後藤氏は政見放送で男性器や女性器の俗称や下ネタを連呼したことで、公職選挙法第150条の2の規定(品位を損なう言動をしてはならない)が適用され、音声はことごとくカットされた。

 遊説活動はなく、エキセントリックな言動からテレビ、新聞で扱われることも皆無だったが、ニコニコ生放送のネット演説会に出演した際、演説の真意を尋ねてみた。

 カメラがないところではいたって温厚な青年で「とにかく選挙に興味を持ってほしかった。一人でも多く、選挙に行ってもらうために出た行動です」という。

 政見放送はあくまで“ネタ”で「芸人を志したこともあった」というから、その完成度の高さもうなずけた。都知事選に出馬するには300万円の供託金が必要となる。「お金持ちと思われますが、コツコツと働いて貯金してきました」

 関心を集める手法の是非はともかく、泡沫といわれる候補たちの表情は一様に真剣そのものだった。

(文化部デスク・小林宏隆)