サッカー界の女神が見捨てなかったC・ロナウドのポルトガル魂

2016年07月18日 12時00分

 サッカーの話題で「黄金世代」や「プラチナ世代」といったフレーズが出てくると、不思議な高揚感に包まれる。日本においての「黄金世代」といえば、1999年にナイジェリアで行われたワールドユース選手権(現U—20W杯)で準優勝したメンバー。小野伸二、稲本潤一、高原直泰、遠藤保仁、小笠原満男、本山雅志、中田浩二といった面々は日本サッカーに大きな足跡を残した。

 だが、この「黄金世代」という言葉は受け売りであって、元祖は1989、91年ワールドユース選手権を連覇したポルトガルの「ゴールデン・ジェネレーション」だ。パウロ・ソウザ、フェルナンド・コウト、ルイス・フィーゴ、マヌエル・ルイコスタ、アベル・シャビエル、ジョアン・ピント…名前を並べるだけでもサッカーファンなら垂涎(すいぜん)もの。残念ながら彼らはA代表としては優勝のタイトルは取れなかったが、最も頂点に近づいた2004年の欧州選手権はドラマがあった。

 この大会を現地で取材していた私にとっては驚きの毎日だった。開幕戦で開催国のポルトガルが伏兵ギリシャに敗れたのを皮切りに、フランス代表MFジダンが決めた奇跡のアディショナルタイムFK弾、ドイツの低迷、イングランド代表MFベッカムのまさかのPK失敗、延長戦シルバーゴールで沈んだチェコなど予想外の出来事のオンパレード。迎えた決勝のカードもポルトガルとギリシャの再戦。「開幕戦と決勝戦が同じ顔合わせ」というのは主要国際大会では初めてのことだった。

 この大会限りで代表引退を表明していたフィーゴ、ルイコスタ、コウトの3人にとっては、ようやく訪れた代表初タイトル獲得のチャンス。国全体が試合前から異常な盛り上がりを見せていて、私もポルトガルが開幕戦のリベンジを果たすものと予想していた。

 だが、結果はギリシャが堅守を発揮して初優勝。黄金世代の3人はギリシャの選手たちがトロフィーを掲げる姿から決して目をそらさなかった。そのそばで号泣していたのが19歳のクリスチアーノ・ロナウド。準決勝のオランダ戦で先制ゴールを決め、ニューヒーローとなるはずだった男にとっては初めてといっていい挫折だった。

 この決勝戦後、運よくミックスゾーン(選手取材エリア)に入ることができた(記者が多数集まる決勝などではミックスゾーンに入るためのチケットが必要だが、なぜかその抽選で当たった)。

 取材エリアに姿を見せたC・ロナウドはまだ泣いていた。「僕のせいで負けた。引退する3人には本当に申し訳ない」。だがその直後に現れたコウトは未来を確信したかのように語り始めた。

「私の代表でのキャリアは終わるが、ポルトガルは必ず将来、チャンピオンになる。クリスチアーノがその力になる。だから私は悲しくもないし、楽観している」

 そこから12年。ポルトガルはついに欧州選手権を制覇した。C・ロナウドは決勝戦の前半で負傷退場したが、ベンチでは懸命にチームメートをサポートした。延長戦突入の際には水やタオルを配り、全員に激励の言葉をかけた。思えば、12年前も出番が減ったコウトやルイコスタは先発から外れても腐ることなくチームを支え続けた。その姿を見ていたC・ロナウドは、先輩たちが見せてきた献身性を思い出したかのように、最後の最後までチームのために戦った。

 ケガで退場して号泣し、優勝して歓喜の涙を流した。「クライベイビー」と呼ばれた12年前から何も変わっていないようだが、精神面で大きく成長した。黄金世代から脈々と受け継がれるポルトガル魂。年間88億円も稼ぐスーパースターになっても大事なことは決して忘れなかったC・ロナウド。サッカーの女神はやはりそんなドラマがお好きなようだ。

(運動部デスク・瀬谷 宏)