芸能人の取材というと、多くはテレビ局とか事務所、もしくは喫茶店などが多く、自宅で取材というケースはめったにない。なくもないのだが、例えばそれは事務所兼自宅のようなケースだ。11年ほど前に取材した高畑淳子のように、本当に「お家」で取材したのは初めてだった。

 高畑が取材場所に指定してきたのは、東京・西武池袋線の、とある駅の近くの住宅街。もっと事務所っぽい家を想像していたのだが、教えられた住所に行ってみると、それは建売住宅のようなごく普通の家であった。今ほどではないにしろ、当時すでに高畑の名前は知れ渡っていた。数多くの舞台、映画、ドラマに出演していた劇団青年座の看板女優だったのだ。

 出迎えてくれたのは彼女自身だった。家にはマネジャーもおらず、変な話、家の中は高畑淳子と2人きりだ。コタツに入って彼女が用意してくれたお茶を飲みながら、話をした。そのイメージ通り、全く飾り気のない性格で取材というより、近所のおばさんと世間話しているような雰囲気だった。

 とはいえ、記者と彼女は初対面である。内心「なんて不用心な人なんだ…」と驚いてもいた。おそらく昭和世代の女優のおおらかさを持った人なのだろうが、この時代、顔見知りならともかく、会ったこともない記者を自宅に呼んでしまう芸能人はいないだろう。

 話は「いい年のとり方」みたいなことがテーマで「何歳になっても、みんな意見を言いやすい人間でありたい」という人生観を語ってくれた。そうこうするうちに「ただいま」と丸刈りの中学生くらいの男の子が帰ってきた。彼女は「息子です」と紹介し「あいさつしなさい」と男の子に促すと、彼は「こんにちは」と記者に頭を下げた。

 今にして思えば、これが現在、役者として活躍中の高畑祐太だったのだ。彼とはそれ以上何の会話もなかったが、このやりとりだけで、しっかりコミュニケーションが取れた、いい親子であることが分かった。開けっぴろげでオープンな性格が息子にもいい影響を与えていたのだろう。

 現在、大ブレーク中の高畑親子。現在の彼女が理想通りの年のとり方をしたのかは分からない。しかし、テレビなどで拝見している限り、少なくとも2人はどんな意見も言い合える良好な親子関係であるの間違いない。

(編集顧問・原口典彰)