先月急死した米歌手プリンスさんには、膨大な数の未発表曲があることが知られている。死後に自宅の地下金庫を電気ドリルで開けたら、アルバム100枚分の未発表曲が見つかった、というニュースも流れたばかりだ。

 アルバム100枚といったら、1枚10曲収録だとしても1000曲。一説には2000曲以上のストックがあるとも言われている。

 まあ、これが普通のミュージシャンの話だったら「1000曲だの2000曲だのって、いくらなんでもちょっとオーバーなんじゃないの?」と疑ってしまうところだが、プリンスさんに限っては「たぶん誇張はないだろう」と納得できる。

 大物ミュージシャンには、本人の許諾なしに出された非合法の“海賊盤”がつきもので、プリンスさんの海賊盤CDも大量に世に出回っている。海賊盤といえば主流はコンサートの隠し録りだが、プリンスさんの場合はそういうライブ音源だけでなく、スタジオでちゃんとレコーディングされた未発表曲の流出音源が多いのが特徴だ。

 流出経路は不明にせよ、そうやって出回ってしまった曲だけでも何百曲も存在する(ユーチューブなどにアップされている曲もある)。流出した曲だけでもそれだけ多いのだから、金庫の中にアルバム100枚分あったというのも信用できるのだ。

 プリンスさんが主にレコーディングを行っていたのは、自宅にある「ペイズリー・パーク・スタジオ」。プライベートが明かされることはほとんどなく、コンサートやインタビューなど公の場に出るとき以外は何をやっているのか謎のベールに包まれていたプリンスさんだが、案外、その答えは簡単なのではないだろうか?

 いくら次から次へと曲のアイデアが浮かび、ボーカルやギターだけでなくあらゆる楽器を自分で演奏できるプリンスさんだったとはいえ、数千曲ものレコーディングをするとなれば、物理的に途方もない時間がかかるはず。つまり、自宅にいる時間の多くはレコーディングに費やされていたのではないかと推測できるのだ。

 アルバム100枚分の未発表音源となると、仮に毎月1枚ずつアルバムをリリースしても8年以上かかる。普通に年1枚のペースだったら100年だ。遺産の相続に関してももめているし、未発表音源の権利関係がどうなるのかも現段階では不透明だけに、プリンスさんの“新作”を今後すんなりと聴くことができるかどうかは分からない。でもそういった諸問題がクリアされれば、ファンの元には天国からのニューアルバムがコンスタントに届けられることになりそうだ。

(文化部デスク・井上達也)