【ニュースのフリマ】オスカー「パラサイト」よりシャレた58年前の日本映画

2020年02月10日 14時42分

 日本で封切られて間もない韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が日本時間10日の米アカデミー賞で作品賞、監督賞など4冠に輝き、昨年のカンヌ国際映画祭パルムドール作に新たな栄冠が加わった。アジア映画界にとって快挙だが、詐欺が家業のような親子の話といえば、夭折の鬼才・川島雄三監督の晩年作で若尾文子がヒロインを演じた「しとやかな獣」もレベルが高かった。

「パラサイト」のポン・ジュノ監督も鬼才だが、4日が生誕102年だった川島監督もその評判をほしいままにした。63年に45歳で死去する前年に送りだしたのが「しとやかな獣」。人をだまして得たカネで庶民的なぜいたくをする一家の心根をあぶりだす。

 元軍人の伊藤雄之助、妻の山岡久乃と一男一女の悪らつにして巧みな弁舌、開き直り、厚顔な振る舞いがアパートの一室で繰り広げられるブラックコメディー。息子の恋人の若尾は、彼らを上回るしたたかさで周辺の男たちを手のひらの上で転がし、勝ち逃げする…。

 ストーリーと俳優陣の演技もさることながら、その見せ方が秀逸。ほぼ全編が部屋の中という制約下、カメラは位置や角度を変え、照明や音響のバリエーションとともに登場人物の心象風景を浮かび上がらせる。部屋を芝居の舞台に見立てており、能楽が延々続くタイトルクレジットはその象徴と言える。

「パラサイト」は貧しい半地下暮らしから高台のセレブ豪邸に寄生し、隠れた家庭内権力を持とうとする夫婦と一男一女を描く。高台と下町の対比ぶりや、凄惨な事件、北朝鮮のパロディーなど社会性に富んでおり、このあたりも評価を高めたに違いない。

 これに対し「しとやかな獣」は社会性は薄いものの、前出のようなカメラワーク、演出など芸術性が際立つ。「パラサイト」も名優ソン・ガンホら出演者の芝居や伏線とその回収など面白さにあふれる。とはいえ“詐欺家族”の透徹した描き方の川島作品にセンスの高さを感じてしまう。

 ただ、「川島雄三 乱調の美学」(磯田勉編、ワイズ出版)に収録された川島コメントは「興行成績は、正月一週の作品としては、最下位だと思います」。続けて「これが売れると、日本映画もいいと、思っていたんですが。これでは、営業的に挫折感をもたざるを得ません」。正当に評価されなかったと受け止めていた。

 失意の川島監督は翌63年6月、「イチかバチか」の公開5日前に急逝する。「パラサイト」の栄光を機に、晩年作の再評価は起きないか…。

(渡辺 学)