【ニュースのフリマ】森昌子とビールケース

2019年03月29日 12時12分

 森昌子というと思い浮かぶのが「ビールケース」。筆者が運動部から文化部に異動した2006年4月、歌手復帰へのキャンペーンが始まっていた。6月発売「バラ色の未来」が20年ぶりのシングルとなったのだが、それに先立ち4月に自伝エッセー「明日へ」が刊行され、都内でサイン会が開かれた。

 当時の芸能担当記者の記事によると、森はビールケースの上から「私も頑張らなくちゃ!」と涙ながらにアピールした。限定100人のイベントに300人が集まり、「慣れない“ステージ”で一瞬つまずくハプニングもあったが、すぐに体勢を立て直し、四方のファンに向かって深々と頭を下げた」(記事から)。

 このサイン会が催されたのは4月16日。折しも衆院千葉7区補選の真っ最中で、「変わらなくちゃ」の小沢一郎新代表率いる民主党の女性候補が23日の投開票で自民党候補を破って当選した。小沢氏は遊説でビールケースを逆さにした上に立って支持を呼びかける姿が注目されたが、森のパフォーマンスは小沢氏を想起させた。

 もっとも箱の上に立つスタイルは前年05年の衆院選で話題を呼んでいた。福岡10区で前職(比例)の西川京子氏と、小泉政権の郵政民営化に反対して無所属となった前職・自見庄三郎元郵政相が“自民対決”。党公認ながら西川氏は自見氏への刺客として送り込まれてきた経緯ゆえか、福岡県連から「みかん箱に乗って頑張って」とつれない対応をされたが、逆手にとって本当にみかん箱遊説を展開した末に当選。西川氏は一躍注目された。

 いわば「上から目線」の県連に、みかん箱からの低い視線で勝利。「泥にまみれても」の心意気を示す象徴的オブジェには大衆の共感を呼ぶ力があったのだろう。後に続く森らのビールケースはその変形スタイルと言える。森進一と離婚してシングルマザーとして出直す上で、イメージ的にもピッタリ感を呼ぶものだった。

 再び当時の本紙記事を引用すると、ビートたけし客員編集長は「とにかく昌子には頑張ってほしい。歌手復帰はきっとうまくいく」。13年後の現在、その言葉通りになったのは言うまでもない。まさに「バラ色の未来」が現実に。なかにし礼作詞のこの曲、「人生は絶えまなく なにかが終わり なにかが始まる」というフレーズは年内引退を発表した現在も、含みが深い。