【競輪命】人生交差点

2020年06月23日 14時43分

人生交差点で話をする和田健太郎(左)と松浦悠士

 誰が言ったか、人生交差点――。和歌山競輪場で初めて行われたGI「第71回高松宮記念杯」は脇本雄太の完全V、GI・4回目の優勝で幕を閉じた。東西対抗戦の枠組みで争われた大会で、並びについて…、のシーンが多かった。

 宿舎、また敢闘門方面と検車場の建物の間に、わずかな空間があった。宿舎の上から降りてくる外付けの階段もそこに通じていた。選手同士がそこで「おっ、明日どうする」「明日、よろしくお願いします」などと、なぜかタイミングよく、そこで鉢合わせするケースを何度も見た。

 決勝を前にした松浦悠士(29)は共同インタビューを控えていた。「和田(健太郎・39)さんがオレにつくこと、ありますかね…」。こうしたケースで和田が他地区の選手につくことはほぼなく「インタビューに行って大丈夫ですかね。とにかく自力自在とコメントします」と、松浦が人生交差点から離れようとしたところ、外付けの階段の上の方から声がした。

「マツウラ!」

 振り返った松浦は和田の姿を認め「まさか!」と笑った。「その、まさか」と和田は話し、「ちょっと話していいですか」と松浦と話し込んだ。和田は深く考え、千葉の先輩にもアドバイスをもらっていたため、しばらくどこにいるか分からなかった。

 こうして2人は他地区ながら力を合わせ、激しい勝負を演じたわけだ。

 脇本の2日目、3日目も振り返ろう。白虎賞には近畿が5人。脇本には稲川翔(35)―東口善朋(40)、そして山本伸一(37)―松岡健介(42)で別れた。準決も近畿5人で脇本に稲川―南修二(38)、そして松岡―村上博幸(41)。みんなで話したり、2人ずつで別れて話したり、ローラーの脇本のところで思いを伝えたり…。

 脇本は初日のレース後に「近畿がこれだけ勝ち上がったことに意味がある。うれしい悩み」と話し、並びについてはみなで思いを確かめ合ったと説明した。「納得するまで話して、どうやるのが正解かを探すのも楽しい。自分たちにとっての答えはどこか」。白虎賞では山本―松岡の、準決では松岡―村上の抵抗を退けた。レース後は戦い切ったすがすがしさと、優しいワッキーだけにいちるの無常を感じたのかなとも思う。

 実質的に2人しか決勝に上がれない準決で5車並んだ北日本勢には賛否両論あった。が、先頭を願い出た桜井正孝(32)の思いに濁りはない。新田祐大(34)―佐藤慎太郎(43)、そして4番手の和田圭(34)、5番手の佐々木雄一(40)も同じ。「北で」の歴史がある。

 準決終了後、最終日用の取材を終えると、気が付けば検車場に残っている記者は業務上時間のかかる私とあと一人くらい。急いで記者席に戻ろうと人生交差点に足を踏み入れたら、特別優秀10Rを走る北の4人がこっちに向かっていた。「コメント変更、大丈夫ですか」。とっさに「あっ、やっぱり並びますか!」と声が出た。最初は桜井―大槻寛徳(41)と小松崎大地(37)―山崎芳仁(41)で別線の予定だった。

 だが「先頭で頑張ります」と発した桜井を後ろで3人も結束を誓うと、人生交差点に暖かい風が流れた。ここで交わされた選手たちの思いのすべては、競輪の歴史そのもの。人間のぬくもりそのものだった。

☆前田睦生(まえだ・むつお) 九州男児。ヘアスタイルは丸刈り、衣装は吊るしのスーツで全国各地の競輪場の検車場を闊歩している。日頃の不摂生を休日の多摩川土手ランニングでなんとかしようとしている姿の目撃情報多数。