【競輪命】アスリートを襲う病と乗り越える精神

2019年12月12日 17時56分

大病を克服して走っている太田黒大心(左)と斎藤輝彦

 歴史上、スポーツの世界では数多くの選手が病に襲われ、苦しみ、倒れ、しかし克服し、復活してきた。今年2月、白血病の診断を受けたことを公表した水泳の池江璃花子(19)は世の中に大きなショックを与え、懸命の努力で復活を目指している今がある。

 競輪界にも挙げ切れないほどの闘いがある。12日の川崎競輪(FⅠ=千葉市営)の前検日でも、2人の選手が病を乗り越えてきていた。地元の斎藤輝彦(37)は悪性リンパ腫にかかり、死も覚悟したという。「医療の進化に感謝です。こうしてまた戻ってこれるとは」。変わらない笑顔で検車場に姿を現わした時は驚いた。

 抗がん剤で治療を行い、過酷なそれを耐え抜いた強い肉体は、もう一度自転車にまたがることができた。同じシリーズを走る師匠の三住博昭(51)は「輝彦が復帰しただけで、オレはもう満足だよ」とつぶやいた。復活してもう一度、バンクでその名の通り輝ける…。ペダルのひとこぎ、ひとこぎに注目だ。

 また熊本の太田黒大心(45)も難病と闘ったばかりだった。11月の岐阜を終了してから、ある時「めまいがして…」。病院に運ばれると、脳の血管に異常があるのではと疑われた。検査すると「普通、血は動脈から毛細血管を通って静脈に行くんですが、動脈から直接静脈につながる血管ができていたんです。かかるのは何十万人に一人、らしいです」。動静脈瘻(どうじょうみゃくろう)という難病だった。

 だが適切な処置と福岡の病院にいるゴッドハンドを持つという医者の処置のおかげで早期の復活となった。太田黒は重度の腰痛や度重なるケガに泣いてきたが「病気は初めてでした!」と笑い飛ばしていた。「頭を強く打つと発症することがあるらしく、自分が手術した後に芸人のトミーズ雅さんが同じ病気というニュースも出てましたね」。トミーズ雅はボクサーとして戦っていた時に、その病巣を得たようだ。

 今月初旬の松戸A級で優勝した大阪の原田隆(44)も悪性リンパ腫を克服した男。ここですべて取り上げることはできないが、骨折だけでなく、重度の病気を克服した選手たちばかり。形は違い、病気ではないが、ガールズケイリンの加瀬加奈子(39)は出産後、母として復帰し、先月末の向日町で優勝した。出産後、復帰して白星を挙げる強い母の姿からも心を打たれるばかりだ。選手たちの尊い、大きなドラマがあふれている。

 世界では、マシュー・グレーツァー(27)の復帰があった。ワールドカップシーズンが始まる前に甲状腺がんに侵され、エントリーリストから名前を消していた。だが、驚いたのはニュージーランドのケンブリッジで開催された第4戦の男子ケイリンでいきなりの銅メダル獲得!と大復活。第5戦、地元のオーストラリアのブリスベンでの大会(13~15日)にも出場する予定だ。

 グレーツァーの首元には手術の痕がくっきり残っている。地元のメディアでは、その復活が「他のアスリートに大きな刺激を与えている」と報じられているようだ。スポーツを見ることは、人間を見ること。目の前に、人間の美しさに触れられる瞬間がある。

☆前田睦生(まえだ・むつお)=九州男児。ヘアスタイルは丸刈り、衣装は吊るしのスーツで全国各地の競輪場の検車場を闊歩している。日頃の不摂生を休日の多摩川土手ランニングでなんとかしようとしている姿の目撃情報多数。

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