日本の自転車競技、短距離トラック種目の躍進がすごいことになっている。2016年秋、リオ五輪で女子チームスプリントを金メダルに導いたフランス出身のブノワ・ベトゥ(46)をヘッドコーチ、日本の国際競輪でも活躍したオーストラリア出身のジェイソン・ニブレット(36)をアシスタントコーチに迎えた。

 そこからの日本勢の成長は目を見張るものがあった。男子ケイリンでは昨年3月の世界選手権(オランダ)で河端朋之(34)が、今年3月の世界選(ポーランド)でも新田祐大(33)がともに銀メダルを手にした。また脇本雄太(30)がワールドカップで2回優勝するなど、世界のトップクラスと遜色ない戦いを見せている。女子も小林優香(25)と太田りゆ(25)の2人が、東京五輪の出場枠の確保、そしてメダル獲得に突き進んでいる。

 五輪直前のW杯シーズンが始まった11月。第1戦(ミンスク、ベラルーシ)で新星・松井宏佑(25)が男子ケイリンでいきなりの銅メダルを手にした。チームに勢いをつけると、同月の第2戦(グラスゴー、英国)でついに“自転車界の夢”深谷知広(29)に火が付いた。

 後世の歴史家が「The Explosion」と呼ぶことになる深谷の進撃の始まりだ。男子スプリントで銅メダルを獲得すると、第3戦(香港)も銅メダル。今月の第4戦(ケンブリッジ、ニュージーランド)では、ついに決勝に進出。惜しくも敗れたが、同種目では日本選手初となる銀メダルを獲得した。第4戦の予選ではハロン(200メートルタイムトライアル)で9秒609の日本新記録も樹立。世界との差は、埋まった。

 1年ほど前、脇本の予言があった。「深谷が吹く(ブレークする)と思いますよ。オレがそうだったように」。深谷は17年秋から現体制のナショナルチームに合流した。河端、新田、脇本に後れを取っており、結果が出ずに悩んだ時期もあった。今年6月には愛する父・兼市さんの死もあり、当時の気持ちを切に吐露したこともある。

 脇本は「シーズンに丸々参加したその後、一気に力を発揮できるようになるんです」。深谷は遠征経験を糧に、また苦しい時期を乗り越え、肉体面、精神面で世界レベルにたどり着いた。それが、今、だ。チームスプリントでも第4戦で16年ぶりの金メダル獲得。タイムも42秒790という素晴らしいもの。雨谷一樹(29)と新田と3人でつかんだ、重い、重いメダルだった。

 東京五輪の出場枠の確保、そしてチーム内での選考争いと今は全員が戦いの最中。その目で、その心で選手たちの戦いを追いかけてほしい。

☆前田睦生(まえだ・むつお) 九州男児。ヘアスタイルは丸刈り、衣装は吊るしのスーツで全国各地の競輪場の検車場を闊歩している。日頃の不摂生を休日の多摩川土手ランニングでなんとかしようとしている姿の目撃情報多数。