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プロフィール
渡辺学
1986年入社。ゴルフ担当を経て89年からテニス、ラグビー、アメリカンフットボール、アマチュアレスリング、陸上、水泳、サッカーなどの取材に携わった。五輪は夏季2回、冬季3回を現地取材。2001年に運動部デスク、06年から文化部で社会面デスクを担当後、専門委員などを経て現在法務広報室長。早大卒。
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なかにし礼氏を驚かせたがん治療をめぐる“ブラックジョーク”
2013年05月14日

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 日本記者クラブから本が送られてきた。

 

 「生きる力 心でがんに克つ」

 

 昨年3月に「ワイド!スクランブル」で食道がんを公表し、これを完治させて10月に同番組に復帰した作詞家で作家のなかにし礼氏の著書。講談社刊のこの本、12月20日に第1刷が発行され、この4月1日で第5刷。自らさまざまな治療法を探した末に、あまり注目されていなかった陽子線治療にめぐり合い、手術をせずにがんを克服。そうした経緯もあり同書は大きな反響を呼んだ。

 

 本が届いたのは、なかにし氏が「記者会見に出席されたみなさんに」ということで日本記者クラブに託したから。同クラブで4月22日、がん治療体験を語っていた。以下はその時の話。

 

 日本のがん治療は「たたく」「切る」「当てる」が“三種の神器”と言われる。抗がん剤でがんをたたく、手術で切る、放射線を当てる。心臓に持病を抱えるなかにし氏は、手術が心臓に与える負担の大きさを考え、切らずに治す道を望んだ。

 

 万全を期すため名医に次々と会う。“ゴッドハンド1号”氏いわく「抗がん剤の調合にアーティストのような医者がいる。紹介しよう」。同2号氏は自信満々に「切るしかない」。なかにし氏は「ちょっと待ってくれ」とたじろぎ、別の選択肢を模索した。

 

 切らずに治す病院を探して入院するも、放射線と抗がん剤が体に与えるダメージも大きかった。心臓に発作が生じるのではとの恐怖感にもかられる。こちらも受け入れられないとなり、いよいよせっぱ詰まり、「死」も感じた。歌謡曲もベートーベンもモーツァルトも慰めにならない。心の支えになったのは旧ソ連・スターリン政権の抑圧下で苦労して生き延びたショスタコーヴィチの音楽。さらに、頭をよぎったトーマス・マンの小説「魔の山」の一節で覚醒し、がんと戦い抜く決意を固めた。

 

 当初は手術を勧めた夫人とともにiPadを駆使し、新しい治療法のある医師・病院をネット検索で探し回る。新興のクリニック、漢方…。目を真っ赤にしながら検索を続けた夫人がある日、「こんなものがある」と見つけたのが陽子線治療。日曜夜のことだった。週明けすぐに病院を絞り、治療へ。巨大な機器を使用する陽子線治療では、1人の患者に医師ら26人のスタッフがついた。治療の肉体的負担も少なく、1か月後に胃カメラで検査したところ、食道はきれいだった。

 

 なかにし氏の成功体験で、陽子線治療の注目度は一気に高まった。これには後日談がある。“ゴッドハンド”氏の1人に、「先生はがんの専門ですよね。何でも知ってますよね。陽子線があることも知っていたんでしょ?」と問いかけた。答えは「知っていた」。さらに「なぜ、心臓が悪くて切れないという僕に手術を勧めて、陽子線は勧めなかったんですか」と尋ねたところ、「それは仕方ない。うちの病院にはないから」との言葉が返ってきた。

 

 「これはブラックジョークだと思いませんか。有名な先生ですよ」

 

 「陽子線は、陽子線治療の施設を持っていない病院では誰も勧めないということ。医療もビジネスであるということの端的な答えであるということ。医者も組織を守る人間で、出世を望む普通の人間であるということ。それらのことが、この言葉に端的に表れていると思う」

 

 日本の医療界では、がん治療において「たたく」「切る」「当てる」の手法が伝統芸能のごとく主流に君臨。家元制度にように確立しており、医師はその中で身動きがとれないような状態にあるという。メインストリームではない陽子線治療を実践する医師は、自ら医学生たちのもとに出向いて講座を開き、この道を志望するよう呼びかけているが、なかなか思うようにはいかないのが現状だという。

 

 この強固な構造が崩れる日は訪れるのか。








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