〝非エリート〟から化けた侍ジャパン・柳田の原動力「地方の大学から良い選手になるんだ」

2021年08月08日 12時00分

五輪の金メダルという大輪の花を咲かせた柳田悠岐(左)
五輪の金メダルという大輪の花を咲かせた柳田悠岐(左)

【取材のウラ側 現場ノート】「地方の星」は、黄金色に輝くメダルを横浜の夜空に掲げて少年のように笑った。金メダルを獲得した侍ジャパンで、全試合フル出場を果たした柳田悠岐外野手(32=ソフトバンク)。〝エリートコース〟とは言えない広島六大学野球連盟に加盟する広島経済大学出身のスラッガーが、また一つ勲章を手にした。

 五輪出陣前、柳田はこう明かしていた。「経大に行ってないと、今の僕はないと思ってます。地方の大学で、こうやって五輪に出られるのもすごく自信になる。やってきたことが間違いじゃないかなと思ってます」。噛み締めるように語ると、こう続けた。「こっから良い選手になるんだというのは、ずっと思ってやってきました」。

 柳田の野球人生に深く関わった人物がいる。広島経済大学・岡田英幸事務局長(61=現野球部顧問)。15年前、部長を務めていた岡田さんは体重68キロの「電信柱」のような17歳の素質を見抜き、アマチュア野球界の名将・迫田守昭元広島商監督(75)に広経大への進学を求めた。「すまんなあ、東都(大学野球連盟)で野球をやらせよう思っとるんよ」。そう断られ、一度は諦めた話は急転する。8月末、迫田監督からの着信が鳴った。「すまんなあ、落ちたんよお…。まだ間に合うじゃろうかあ」。強豪大学のセレクションを受けたが、縁がなかった事実を伝えられた。当時、広経大野球部の推薦枠は最大10だったが「例年なら埋まってしもうとるのに、どういう巡り合わせか、たまたま1つだけ残っとったんです」と、岡田さんは回想する。高3の夏、駒大苫小牧と早実による球史に残る夏の甲子園決勝を、祖母宅でアイスクリームを食べながら見ていた柳田少年。ここから濃密な野球人生が始まった。

 広経大入学前にウエートトレーニングに目覚め、体重が一気に10キロ増えた。大学3年時には88キロと見違える体格となり、持ち前の野球センスでプロの目に留まる「大砲候補」へと成長。スラッガーの本質を見抜いた王貞治球団会長(81)に導かれ、ソフトバンクにドラフト2位で入団すると、規格外の選手として今に至る。

 岡田さんは広経大OBで選手を引退後すぐに監督になり、部長に退いてからも選手獲得に奔走した。「高校で輝けんでも、先を行く甲子園のスターたちと同じプロの土俵に立たせてやりたい」。広経大史上最高の選手を発掘した張本人だが「迫田さんが『化けた』言うとるように、夢にも思わん成長を遂げました」と言う。当時の龍憲一監督(84)をはじめ「背中を押してやるのが役目」という型にはめない指導方針が、稀代のスラッガーの下地をつくった。

 柳田は五輪開幕前、岡田さんに電話を入れた。「メダル、獲ってきますけん」。短く一言、そう誓って「地方の星」は日の丸を背負ったが、岡田さんは本人の心中を読み解いていた。「柳田はメダルの色はそんなに気にしとらんのです。あの『日の丸の重み』ちゅうのを背負いたかったんです。そういう男ですから」。そして、五輪でのプレーを見てこう続けた。「私がうれしかったんは重圧を顔に出さず、涼しい顔して穏やかに野球をやっとったこと。王会長をはじめ、ソフトバンクという球団には感謝しかありません。そんな振る舞いができる立派な選手に育ててくださった。本当にありがたいことです」。

 今大会は一つ一つのプレーに魂がこもっていた。準々決勝の米国戦9回一死一、三塁で同点の内野ゴロを放ったシーンも顕著だった。フルスイングが代名詞の男が「当てにいった」とチーム打撃に徹してもぎ取った1点は、ベンチの士気を大いに高めた。大会直前に右脇腹違和感のアクシデントもあったが、全試合フル出場。その存在がチームに安心感を与え続けた。

 広経大の誇りを胸に、金メダル獲得に貢献した柳田。高給取りになっても背伸びをすることなく、味の好みも変わらない。プロ入り後も、学生時代からなじみの地元の飲食店に通う。面識のない広経大生のお代もこっそり済ませて店を出る。微笑ましい母校愛は、どこからともなく人伝いに耳に入る。「カッコつけない。偉ぶらない。手柄を主張しない。自然と柳田の周りに仲間が寄ってくるのは、そういう所でしょうね」。岡田さんは「それが誇り」と胸を張る。

 この10年、九州地区を中心に広経大を志願する受験生が急増している。野球部のレベルも年々上がり、柳田のように「地方の星」として立身出世を誓う後輩たちが目を輝かせている。母校への貢献度は計り知れない。だが、大学関係者は言う。「柳田さんの性格を心得ていますので、負担になることはしたくない」。特別表彰級の貢献度を周囲は認識している。それでも、形となるのはしばらく先のことかもしれない。広島から巣立った飾らない男は、これからも抑えきれないオーラを放ちながら野球界を盛り上げるはずだ。

(ソフトバンク担当・福田孝洋)

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