やはり頼りになるのはこの男か。侍ジャパンの田中将大投手(32=楽天)が、順調な調整ぶりをアピールしている。25日の巨人との強化試合(楽天生命)に先発し、2回2/3を1安打無失点。今後は8月1日から始まるノックアウトステージ初戦での先発が濃厚だ。日米での活躍はもとより、WBCを含めた国際大会でも実績十分となればオープニングラウンドから投入してもいいはずだが…。稲葉監督が田中将を3戦目まで「温存」するのはなぜか。そこには悲願の金メダルを狙う入念な戦略が隠されている。

 五輪本番に向け田中将が安定した投球を披露した。日の丸を背負っての登板は実に2013年のWBC以来だったが気負いはなかった。

 初回は丁寧にボールを低めに集め、内野ゴロ三つ。続く2回も二死から安打を許しながら、わずか7球で打者4人を仕留めた。この段階で球数は計18球。あまりの球数の少なさに予定の2回を超え3回も続投。打者2人を「おかわり」する計26球だった。

「とりあえず自分のやりたいことができました。あとは本戦に向けて、今日の反省を生かして調整していきます」とは降板後の本人談。一時ワクチンの副反応で心配された体調面の不安も一掃しただけに、侍関係者やファンも胸をなでおろしたに違いない。

 そんな田中将だが、五輪本番での登板は山本(オリックス)、森下(広島)に次ぐKOステージ初戦(8月1日または2日)の先発が有力視されている。しかし、28日のオープニングR初戦の相手は強豪ドミニカ共和国。メジャーで同国勢と豊富な対戦経験を持つ田中将の方が「抑えやすいのでは」とも言われていた。それでも稲葉監督は、田中将を当初から「3番手」で起用する方針を固めていたようで、その背景には田中将でしか重責を担えない複雑な事情が絡んでいた。

 一つ目が調整面だ。オープニングRの2試合(28日ドミニカ共和国戦、31日メキシコ戦)は日時や相手、対戦場所が決定済み。登板する投手は調整がしやすく、相手打線の対策やイメージにも時間を費やすことができる。一方、KOステージ初戦はオープニングRの勝敗で日時や対戦相手が変更するため、先発投手の調整は難しい。となれば、メジャーで中4日や変則日程を長年経験してきた田中将が「最適」となる。

 しかも、五輪本番で使用される公式球は日本製とはいえSSK社製のもの。19年のプレミア12や他の国際大会で使用されているものの、日本の公式戦で使用されているボールとは若干仕様が異なる。実際、23日の強化試合(楽天戦)で先発した山本も「投げてる感じが違うので。その辺で変化球だったりが変わってくると思う」と話していた。だが、田中将は「滑る」と評判のメジャー球を絶妙に操ることができる。この日打者9人に対し2奪三振と五つの内野ゴロという完璧な投球内容を見ても適応能力は一目瞭然。こうした田中将の能力が日本の命運を握る3戦目の抜てきにつながっている。

 メンタル面を含め、どの試合でも柔軟に対応できる万能型。それが田中将だ。やはり日本の命運は百戦錬磨の右腕にかかっている。