【平成球界裏面史 WBC編(3)】大会3連覇への道筋はなかなか整わなかった。平成25年(2013年)3月開催の第3回WBC参加について当初、NPBおよび12球団と日本プロ野球選手会側はMLBとの利益配分を巡って強い不満を募らせ、不出場の姿勢を取っていた。しかし侍ジャパンの常設化に伴って新たな代表ビジネスが確立されることになると日本側は熟考の末、不出場決議を撤回。難航していた指揮官の選考も前年10月、山本浩二監督にようやく決まった。

 ただ、出場要請を出していたイチロー(ヤンキース)やダルビッシュ(レンジャーズ)らメジャーリーガー6選手は参加を辞退。これにより第3回大会へ臨む侍ジャパンは初めてNPB所属選手のみの編成となった。それでも田中将大(楽天)、前田健太(広島)、阿部慎之助(巨人)、内川聖一(ソフトバンク)ら12球団えりすぐりの代表選手28人は間違いなく現状の最強メンバー。同年2月に宮崎で行われた代表合宿を終え、チームスタッフや関係者は誰もが「3連覇は固い」と口をそろえて確かな手応えも感じ取っていた。

 ところが、ふたを開けてみると大苦戦の連続だった。福岡・ヤフオクドームで行われた第1ラウンドA組の4か国総当たり戦でまず3月2日にブラジルと対戦し、5―3で薄氷の勝利。翌3日の中国戦も5―2と格下相手に苦戦を強いられた。青息吐息ながらも連勝でA組2位以内が確定。第2ラウンド進出を決めた日本の次戦は6日のキューバ戦だった。

 このA組1位通過をかけた両国の戦いの前には怪騒動がぼっ発。首脳陣やチームスタッフを震え上がらせていた。「ワタシはキューバ人のウンベルトです。このWBCはキューバが勝ちます。アナタたちはダメね!」。このようにカタコトの日本語でまくし立てる〝謎のキューバ人〟が突然、某コーチの前に現れたことがきっかけとなった。

「そのコーチのもとには結局計3回、同じ『ウンベルト』が宿舎の外で声をかけてきたそうです。さすがに本人も気持ち悪がっていましたよ。それに別のコーチにも聞いたところ『オレも宿舎の外で、その〝ウンベルト〟に肩を叩かれ、同じことを言われたんだよ!』と言っていましたからね。WBCでの日本の敗戦とキューバの勝利を願うとなれば、やはりキューバ代表の関係者しかいないと思うのですが…」(侍ジャパン関係者)。

 キューバ側の〝陽動作戦〟に惑わされたのか。日本は6日のキューバ戦で3―6と敗戦。それでもA組2位通過となり、次の第2ラウンド1組(東京ドーム)では1位突破を決めて決勝トーナメントが行われる米国へ歩を進めた。

 しかし、世界各国から「打倒・日本」で徹底マークされた山本ジャパンは、準決勝・プエルトリコ戦(サンフランシスコ・AT&Tパーク)であえなく敗退。3連覇の夢を断たれた。参加、不参加をめぐる大会前のゴタゴタやメジャーリーガーの参戦問題、そして就任が決まるまでに難航した監督問題…。どうしたら本当の意味での「全日本」チームを編成できるのか、今後への課題をあらためて認識させられた大会となった。