【台湾・台中7日発】侍が3戦全勝で日本へ戻る。国際大会「プレミア12」1次ラウンド最終戦の台湾戦(台中インターコンチネンタル球場)は主砲・鈴木誠也外野手(25=広島)の2戦連発などで8―1と快勝。B組首位でスーパーラウンド進出を決めた。熱狂的な地元ファンの視線もあって試合前から報道合戦が過熱した現地注目の一戦。完全アウェーの状況をはね返した舞台裏では、稲葉篤紀監督(47)の巧妙な“二枚舌作戦”も効いていた。

 前日までの2戦とは異なり、球場は満員の台湾ファンで埋まった。一球一打に大歓声が上がる異様な雰囲気の中で始まった試合は、日本が理想的な展開で主導権を奪った。初回に4番・鈴木の適時三塁打などで2点を先制すると、先発・今永(DeNA)は3イニングを零封。3回には再び鈴木の2戦連発となる大会2号2ランが飛び出すなど、効果的に得点を重ね、盤石の継投で逃げ切った。

 1次ラウンドA、B、C組の上位2チームで争われるスーパーラウンド(東京ドーム、ZOZOマリン)では同組チームとの対戦はなく勝敗結果が持ち越されるため、世界一を目標に掲げる侍ジャパンにとっては大きな白星。稲葉監督は「この3戦を通して打撃陣が非常にいい状態に上がってきてくれた。投手はもともと、みんないい。このまま継続してやってくれれば」と語り「スーパーラウンドもみんなで戦っていく」と気を引き締めた。

 軍配は日本に上がったが今回の台湾チームは本気で勝ちに来ていた。現地では大一番の日台戦へ向けた報道が過熱。地元メディアは日本語にたけた「侍担当記者」を台湾入りから密着させ、ジャパンチームの一挙手一投足を伝えた。なかには「日台戦争」と過激な表現であおるメディアもあったなか、光ったのは稲葉監督のメディアコントロール術だ。絶妙に“二枚舌”を駆使し、挑発報道をかわしていた。

 台湾入り後、初練習となった3日には、こんなやりとりがあった。日本メディアが初戦、2戦目の舞台となった桃園野球場のグラウンドコンディションについて質問したときのこと。指揮官は「芝は少し特徴があるといいますか、平らではないところがあって少し硬いですよね」と困り顔で評していた。ところが直後の台湾メディア向け囲み取材では、同様の質問に「以前に視察したときより、芝と土の境目の段差が解消されていた。素晴らしいグラウンド」と返答したのだ。

 台湾メディアの侍ジャパン担当記者が嘆息する。「稲葉監督は“したたかな人”だな、と感じましたね。我々(台湾メディア)を刺激したくないのか、今回の大会では言葉を使い分けていました。このような対応は小久保前監督時代はなかったことです。具体的な評価は避け、こちらには本心を明かしてくれないので情報は日本メディアに頼るしかない。結果的に報道はおとなしくならざるを得ませんでした」

 ただでさえ、完全アウェーで重圧のかかる一戦。選手にストレスなく試合に臨ませるため、台湾メディアが仕掛ける余計な場外戦を回避したのはファインプレーだった。地元メディアも顔を揃えた試合後の公式会見では「台湾はすごくいい打者が揃っているというデータがあった。実際に見てもいいスイング。投手も制球がいい印象があって、力強く、押されてもいた。投打ともに選手が揃っている印象があった」と語った稲葉監督。これもリップサービスか…。台湾メディアは疑心暗鬼だろう。