ナゴヤドームに駆けつけた今季最多、3万6606人の観客がその復活劇に酔いしれた。“平成の怪物”こと中日の松坂大輔投手(37)が30日、DeNA戦で4241日ぶりの日本球界勝利を飾った。ここまでの2試合とは打って変わって中日移籍後、最速となる147キロの真っすぐとカットボール中心の強気の投球を披露。強力DeNA打線相手に6回3安打1失点と力投し、完全復活を強く印象づけた。

 最後の打者、ロペスが遊飛に倒れると、ようやく笑みがこぼれた。「めちゃくちゃうれしかったです。物に対する執着心はない方なのですが、このウイニングボールは特別なものになりました」。怪物も人の子。やはり復活勝利の味は格別だった。

 これまでとは別人の松坂がマウンドにいた。変化球を多投して相手打者をかわす過去2度の投球とはまるで違う。初回、先頭の神里に対して6球中5球、真っすぐで勝負。結果は四球となったが、これまでにない力強い球を投げ込んだ。何よりも攻める気持ちが存分に出ていた。「チームが連敗中だったので、連敗を止める。その気持ちで投げていました。初回から飛ばしていきました」

 神里の盗塁死と左飛で二死となり、横浜高の11期後輩の筒香を迎えると「めっちゃ力が入りました」とエンジン全開。初球に中日移籍後、最速となる144キロの真っすぐでストライクを取ると、2球目にチェンジアップで平凡な左飛に打ち取った。

 29日のDeNA戦に敗れ、チームは4連敗で借金は最多の6。5月1日から苦手な屋外球場が8試合続く。チームにとって勝つのと負けるのとでは天と地ほども違う。そんなプレッシャーを力に変えた。3回には中日移籍後の最速を更新する147キロを計測。毎回走者を背負いながら、4回までに5三振を奪う力投を見せた。

 最大のピンチは5回。内野安打と2つの四球で一死満塁とする。だが、ここでも松坂は冷静だった。ロペスを三ゴロに仕留め、三塁走者を本塁で封殺し二死満塁。続く宮崎に対しては「あそこは最悪、押し出しでもいいかなと。ああいう形の方が最少失点で終わるんじゃないかと思ってました」とコースを突いて計算ずくの押し出し。後続を打ち取り、言葉通り1失点でしのいだ。

 これには森監督も「押し出しで1点よりも打たれて2点、3点のほうが嫌だって考えられるヤツがほかにいるのか。ヤツらしい」と最敬礼だ。

 5回100球を投げ終えてベンチに下がり、森監督から「もういいだろう。代わろう」と声をかけられても「行きます」と続投を志願。114球を投げ6回1失点と先発としての仕事を果たした。

 西武時代から親交のあるプロゴルファー・片山晋呉(45)と25、27日と2度にわたり食事を共にした。ただ「どうしたら、その年で体が動くんですか」と話題はもっぱら体のこと。同級生で同期入団の阪神・藤川球児投手(37)にも、電話でトレーニング方法などについて質問攻めにしている。野球小僧のあくなき探究心は、衰えを知らないようだ。

 試合後、報道陣に囲まれると「勝った瞬間はすごくうれしかったですけど、もうだいぶ薄れてきてます」と苦笑い。松坂のゴールはここではない。まだまだ遥か先にある。