史上最多となる高校通算111本塁打の実績を引っさげ、7球団競合の末、鳴り物入りで日本ハムに入団した怪物スラッガー・清宮幸太郎内野手(18=早実)。そのルーキーイヤーに日本中の注目が集まるが、そんな怪物の正体を動作解析のスペシャリストが徹底分析した。これまでの歴代スラッガーらとの決定的な違いとは――。

「映像からの算出なので概算にはなりますが、スイングスピードはおおよそ140キロ台中盤。140キロがプロ一軍の合格ラインというところなので、高校生としてはかなり速い。もちろんプロのトップクラスと比較するとまだまだですが、これから伸びる余地は十分あるでしょう」

 スポーツ科学研究の権威・筑波大学で野球の動作解析を専門に研究する川村卓准教授は清宮のバッティング映像を見ながら、そういって期待を込める。川村准教授が特に着目したのは清宮の下半身の柔らかさ、粘りだ。

「言い方は悪いかもしれませんが、お相撲さんみたいなんですよ。軸足が外側に曲がって、がに股で踏ん張っているでしょう。軸足に重心が残っているのはメジャーの強打者によく見られますが、清宮選手はただ強いだけじゃなくしなやかさがある。右打者では元中日の和田選手やソフトバンクの内川選手がいますが、左だとちょっと思いつかないですね。よく松井秀喜選手と比較されますが、清宮選手は柔軟性があるぶん下半身が崩されてもホームランにできている。対応力はすでに松井選手よりも上です」

 物理学の視点から見ても清宮のバッティングはすでにスラッガーの理想形だ。川村准教授はインパクトの瞬間の前足を指さしてこう続ける。「清宮選手の前足は地面に対して約70度の角度ですが、これはメジャーのホームランバッターに多い角度。有名どころだとバリー・ボンズ、大谷選手も70度ですね。なかにはベリンジャーのように60度近くまで傾く選手もいますが、どうしても飛距離と引き換えに率は下がります」

 理論上は傾きが大きいほどエネルギーは伝わるが、野球に限ると揚力が生まれすぎてフライ気味になり、逆に飛距離を損なう可能性もある。人体の構造からも70度がひとつの理想的な強打者の基準だという。

 理想的な数値は体の傾きだけではない。バットの入射角についてはすでに「完璧」な領域だという。「バットの軌道はコースによって異なるので一概には言えませんが、飛距離を出す理想的な角度は水平からマイナス9度と言われています。これはボールが放物線を描いて落ちてくるからで、この軌道が水平から約4~7度。それと直衝突させるのではなく、やや下からボールの中心の2センチくらい下を叩くのが一番飛ぶ、というのが現在の定説です。清宮くんは去年は重心が流れて約18度の角度でバットが出ていたのが、今年からはほぼ9度。まさしく完璧な角度と言っていい」

 この角度でボールの下を叩いたときに生まれる打球角度は30~35度。物理的には35度が一番飛距離が出る「限界値」というが、少しでもブレると力のないポップフライになってしまう。清宮はむしろ完璧なスイングを追求するより、“詰まらせる技術”を身に付けるべきだとアドバイスを送る。

「『詰まったけど入りました』というコメントがたまにありますよね。大谷選手が日本で唯一会得できなかったのがこの技術。詰まるとボールの力がバットに吸収され、回転が殺せるんです。回転がかからないからポール際でも打球が切れない。今よりヒジを伸ばして、インサイドアウトがうまくなればもっとホームランは増える。打率も残せる、3冠王タイプの打者になれるでしょうね」

 科学的な見地から見てもすでに理想的なスラッガーの完成形をほぼ体現している清宮。わずかな課題を克服した時どんな大打者となっているのか、期待は膨らむばかりだ。

☆かわむら・たかし=1970年5月13日生まれ、北海道江別市出身。小学校1年生のとき軟式野球チーム「大麻アトムズ」で野球を始める。中学では軟式野球部でプレー。札幌開成高校進学後、3年夏に主将として甲子園出場。筑波大学、筑波大学大学院を経て96年浜頓別高校に教師として赴任。4年間野球部の監督を務める。2000年から筑波大学体育科学系講師として講義を行い、その後、硬式野球部監督に就任。選手の指導・育成に携わる傍ら、体育系准教授として野球動作解析の研究を行う。著書に「甲子園戦法 セオリーのウソとホント」(朝日新聞社)、「バッティングの科学」「ピッチングの科学」「監督・コーチ養成講座」(いずれも洋泉社)など。174センチ、80キロ。右投げ右打ち。