代理人弁護士が語る「年俸調停の裏側」「代理人制度の問題点」

2017年11月25日 11時00分

大友弁護士とミス東スポ・日里麻美

 人気野球漫画「グラゼニ」に登場している本紙・関根記者が「ミス東スポ2017」の日里麻美とともに“野球人”を取材する月イチ企画。今回はプロ野球の代理人を務める大友良浩弁護士を直撃。年俸調停の裏側や代理人制度の問題点などについて語ってもらった。

 セキネ:これから契約更改が本格化します。選手にとっては心強い味方となる代理人ですが、実際のところ、球団との交渉ではどこまで査定内容を明かしてもらえるものですか?

 大友:私の経験や周りからの話を総合すると、査定の基準は明確に提示されないことも多々あるようですね。

 日里:だったらどうやって交渉するんですか!?

 大友:なのでこちらは投手であれば、登板試合数、勝利数、防御率などの客観的指標をもとに、あとは同じ球団や他球団の同じような選手の年俸を参考に交渉しますが、難しさは確かにありますね。

 セキネ:大友弁護士といえば、代理人として2010年度、西武時代の涌井選手の年俸調停(※注参照)に臨み、大幅アップを勝ち取ったことでも知られています。

 大友:球団は後半の勝負どころで勝てなかったことを理由に現状維持の提示でしたが、その年、涌井選手は14勝8敗、5年連続2桁勝利を果たしています。

 日里:厳しすぎ~!

 セキネ:お金に関しては球団ごとの事情もあるとはいえ…ね。

 大友:結局、保留制度がある限り、選手は当該球団としか交渉できない。交渉の折り合いがつかなかったら、極端にいえば自由契約になる可能性もあるわけです。

 日里:それじゃ強く(強い態度に)出られないですよね。

 大友:例えば「テレビを買う」となったら、今ならヨドバシカメラやヤマダ電機、ネット通販など価格の比較をするじゃないですか。競争があるから、安くもできるわけですよね。ただその球団としか交渉できないとなれば、競争原理が働かないし、交渉材料にも乏しく、選手の立場はそもそも弱い。

 セキネ:しかも、調停ともなると…。

 大友:調停は申し立てをしてから30日以内に結論が出るんですが、2月のキャンプインまでかかってしまうと、2月1日以後、契約締結の前日まで1日につき年俸の300分の1を減額されます。年俸3億円の選手が2月11日に契約締結した場合、1日100万円×10日で1000万円減額されてしまうんです。

 日里:そんなに!?

 大友:選手にとっては、お金に固執しているイメージを持たれるんじゃないかと、どうしても二の足を踏んでしまいますね。

 セキネ:結局、涌井投手の後、今に至るまで年俸調停を行った選手はなく、代理人交渉も広がりを見せないなか、野球界にどういったことを求めたいですか?

 大友:まず代理人が1人の選手しか担当できないという制限を撤廃してほしいですね。選手間の利益相反の問題も挙げられていますが、少なくとも他球団の選手であれば問題ないように思います。なので「球団ごとに1人まで認める」といった中間案もあるわけで間口を広げてもらいたい。

 セキネ:正当な評価を求めたい、と。

 大友:僕自身、社会人野球までやってきてプロ野球の世界に入ることがいかに大変で、いかにすごいことかというのは分かります。なので野球に集中するためにも、不慣れな交渉事で主張しにくいのであれば代理人をもっと活用してほしいと伝えたいです。

※注=2010年度の涌井(14勝8敗)に関して、後半の勝負どころで勝てなかったことを理由に西武側は現状維持(2億2000万円+出来高)を提示。シーズンを通じた評価をすべきとして3億円を要求した涌井とは4度の交渉でもまとまらず、年俸調停となった。結果、調停委員会の裁定は2億5300万円。参稼報酬はどのように決定されるべきかといったテーマに、当時の調停委員会は「終盤の成績が悪かったことを過度にマイナス評価することはできない」との見解を示した。日本における年俸調停は涌井で7例目で、過去6例のうち球団提示額から上がったのは2例のみ。その最大の上げ幅は510万円とされていたが、3300万円増という選手側の主張が大幅に認められたことでも話題を呼んだ(金額は推定)。

☆プロフィル=おおとも・よしひろ 1969年12月19日生まれ。神奈川県出身。神奈川県立厚木高校を経て立教大学に入学。野球部時代には東京六大学秋季リーグ戦で優勝2回。卒業後、株式会社リクルート野球部に所属。98年6月に退社し、2000年11月に司法試験にスピード合格する。プロ野球代理人として西武時代の涌井秀章投手(09、10)、ソフトバンクの武田翔太投手(15、16)を担当。はる総合法律事務所パートナー。

【グラゼニとは】講談社「週刊モーニング」で連載中の、中継ぎ左腕・凡田夏之介を主人公とした異色の野球漫画。球界では有名な「グラウンドには銭が落ちている」の言葉を体現すべく、ガムシャラに道を突き進んでいく凡田の姿とともに「カネ」をめぐる野球界の赤裸々な裏事情も描かれ、人気を博す。2018年から「BSスカパー!」でアニメ化が決定。原作・森高夕次、漫画・アダチケイジ。「グラゼニ」全17巻と「グラゼニ~東京ドーム編~」12巻までのシリーズ累計で300万部を突破。最新単行本13巻が発売中。(この連載は週刊モーニングとの相互連載です)。