日本ハム・大谷翔平投手(23)が、国内最終登板となる4日のオリックス戦(札幌ドーム)にプロ5年目で初めて「4番・投手」で先発出場。打っては先制につながる中前打、投げては2安打10奪三振の今季初完封という圧巻の投球で、北の大地のファンを最後にまた喜ばせた。ネット裏には12球団18人のメジャー視察団が見守っていたが、メジャーは大谷の何を見ていたのか。追跡した。

 毎試合バックネット裏に陣取ってきた米スカウト陣は、大谷の「どこ」を見ていたのか。160キロを超える球威や豪快な本塁打かと思いきや、某スカウトによると「そんなことはまったく気にしていなかった」という。

「日本では大谷の速球が160キロを超えるたびに大騒ぎしていたが、メジャーには100マイル(約161キロ)の速球を投げる投手は何人もいる。球威は正直、平均以上であれば問題ない。それよりスカウトの多くがチェックしていたのは球数と各球種のストライク率。米国で成功するには球威以上にこうした点が重要だからね」

 メジャー各球団の先発投手はシーズン中「中4日登板」が基本。この影響で、1試合100球前後という球数制限が課せられ、大谷もこの「ルール」には従わざるを得ない。大谷だけ特別扱いして登板日を中5日や中6日にすると、チームの先発投手陣全体の登板間隔を大幅に変更しなければならないからだ。

 加えてメジャー中継ぎや抑え投手の多くは、オフの契約時に「登板試合数」を盛り込んでいる。そのため先発が試合終盤まで好投しても、救援陣に登板機会を持たせるために強制的に先発を降板させるケースも珍しくない。だからこそスカウト陣は球威には目もくれず、大谷の球数やストライク率を注視したわけだ。

 一般的にメジャーでは1イニング当たりの投球数が15球程度なら好投手と評される。昨年の大谷の1イニング平均投球数は15・9球。今季もこの日の完封勝利で15・9球と持ち直したが、大谷は突然制球を乱すこともあるため、各球団で評価が割れているそうだ。

 ただ、大谷は投手だけではない。「打者・大谷」はどこを見られていたのか。別のスカウトは「外角球への対応を調査していた」と明かした。

「日本よりメジャーのストライクゾーンはボール2個分ほど外角が広い。日本から来る打者は必ずこの差に戸惑う。だからこそ、大谷がどの程度、外角への際どい球に対応できるか、ここを徹底的に調査した」

 メジャーで大谷が安打、本塁打数を増やすためには外角球を確実にバットの芯で捉え、強い打球を逆方向に飛ばさなければならない。それが実戦でできているか。スカウト陣はおのおのの目で対応力を確かめていた。

 そして、その「評価」はどうだったかといえば…。これも各球団で評価が割れている。

 あるア・リーグのスカウトは大谷の「腕の長さ」と「柔軟性」を高く評価。外角ボール気味の球を捉えるインパクト時の打撃に注目し「他の日本人に比べ腕の長さがあるから外角球にも確実にバットが届く。ヒジから下の部分も柔らかく、ヒジと手首だけで強い打球が打てるのも魅力だ。打者専念なら3割、30本は確実に狙える」と絶賛。

 一方、ナ・リーグのスカウトはツーシームへの対応を細かく調査していた。メジャーでは「動くボール」が主流。そのため大谷の打者評価はツーシームへの対応を見極める必要があるという。

「本来、米スカウトの多くは大谷のツーシームへの適応能力を今春のWBCで判断したかった。でも、大会直前に日本代表メンバーから外れたため、それが不可能になってしまった。今さらの話だが、もし彼(大谷)が今春のWBCに出場し、ツーシームへの対応力を見せていたら、現在の彼に対する『投高打低』の評価が『投低打高』に変わっていたかもしれない」

 すでに丸裸にされていそうな大谷だが、それも非凡な才能を持つからこそ。これまでの日本人選手を超越するパフォーマンスを海の向こうで見せられるか。