旅ができない父、寝たきりの義妹…そして家族への恩返し

2017年09月30日 11時00分

笑顔がまぶしいリンドアはメジャーを代表する遊撃手だ(ロイター=USA TODAY Sports)
元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」

 

【フランシスコ・リンドア内野手(インディアンス)】17歳だったフランシスコ・リンドアがインディアンスと契約し、もらった290万ドル(約3億2600万円)の契約で最初にしたことの一つが、歯の矯正だったそうだ。

 球界の「ミスター・スマイル」と呼ばれる彼の笑顔は見るものを魅了する…とは聞いていたけれど、実際に会った彼の好感度は想像以上だった。日頃から笑っているのを物語る上がった口角と、真っ白い歯を上下とものぞかせる大きな笑顔。少年のようにいたずらな瞳とは正反対の余裕とカリスマ性。決して大柄とは言えない体格から、醸し出される特大な貫禄に尊敬の念さえ抱いた。

 フランシスコの父親ミゲールさんは長年PTSD(心的外傷後ストレス障害)と闘っており、パニック障害を起こしてしまうため飛行機に乗れない。そのミゲールさんが、フランシスコが12歳の時にプエルトリコからフロリダ州へ移住の決断をする。

 9歳の時に父が再婚したため、実はフランシスコには寝たきりの義理の妹がいる。

「生まれた時から脳性まひで、話もできなければ動けない。フロリダ行きを決めたのは、僕がいい環境で野球ができるようにってことと、義妹がより良い医療を受けられるようにって。米国の方が医療保険も良かったから。旅ができない父は『海を渡ったら二度と戻らない』って言ってこっちに来たんだけど、その言葉通り、一度も母国には戻っていない」

 それまでは実の母や兄弟たちと暮らしていた生活から、父らとともに海を渡ったものの、フロリダでは全寮制の学校へ。英語は皆無で「意味がわかりません」というフレーズさえ覚えられずに、孤独に泣いた夜もたくさんあったという。

「でもね、義妹のことでも、世の中には自分が経験していることよりも大変なことってあるんだなって学んだんだ。人生を楽しむこと。すべてが当たり前だとは思わないこと。人生を精一杯生きること。その彼女も今、19歳。お医者さんに言われたより、ずっと長生きしているんだよ。これからもできる限り長生きしてほしいと思っている」

 オフになればフロリダの実家へ行って、義妹に話しかけたり、一緒にテレビを見て過ごすのだそうだ。プエルトリコに残してきた家族はメジャー入りして、全員近くに呼び寄せたから、今はもう寂しくない。父は飛行機に乗れず応援に来れないけれど「僕の頭の中にはいつもいるから大丈夫」と満面の笑みで話す。

「僕はね、恩返しをしたいんだ。僕がやることなすことすべて、家族のため。彼らのために一生懸命働くし、めいっ子やおいっ子が僕のような幼少期を過ごさなくてもいいように、彼らの未来のために、僕ができることは何でも助けになりたい。これまで家族が僕のために犠牲を払ってくれたから、今度は僕の番。彼らのためにも一生懸命練習して、ベストな選手、ベストな人間になれるように頑張りたい」

 いよいよ来週に迫ったポストシーズン。日本でインディアンス戦の中継を見られる数少ないチャンスだ。ぜひ、この真っ白な歯を見せながら笑顔で楽しそうにプレーするフランシスコの姿を探してほしい。 

 ☆フランシスコ・リンドア 1993年11月14日生まれ。23歳。プエルトリコ・カグアス出身。180センチ、86キロ。右投げ両打ち。内野手。2011年、ドラフト1巡目で指名されたインディアンスに入団。15年6月14日のタイガース戦でメジャーデビュー。そのまま遊撃のレギュラーをつかみ、99試合出場で打率3割1分3厘、12本塁打、51打点、12盗塁と好成績を残す。16年は3番打者として2年連続で打率3割、2桁本塁打をマークし、守備ではゴールドグラブ賞を受賞。17年のWBCにはプエルトリコ代表で出場し、最優秀遊撃手に輝く。愛称は「ミスター・スマイル」。

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