元広島・廣瀬純氏が語る田中広輔成長の原点

2017年09月22日 11時00分

切り込み隊長として連覇に貢献した田中

【始まりの鐘が鳴る~カープ日本一への道~廣瀬純】今季もカープ不動の1番打者としてチームのリーグ優勝に貢献したのが田中広輔(内野手=28)です。特に今年は打撃が安定。昨季までは波が激しく、シーズン打率も2割6~7分台でしたが、今季は終盤まで3割近い打率を維持しました。

 昨季までと比べ、良くなった点は2つ。「軸がぶれないこと」と「打つポイント」です。通常、打者はテークバックから足を踏み込む際、頭、腰などが上下動しがちです。広輔はここ数年、自ら意識してこの上下動をなくし、バットの芯で確実にボールを捉えられるようになりました。

 同時に、打つポイントを体に近づけたおかげで、極限までボールを見極められる。昨季の四球数が143試合で77個に対し、今季は136試合で86個(20日現在)。今年7月8日のヤクルト戦では第1打席で石川投手から15球粘り、最後は左翼線二塁打を放ちました。ボールを見極められるからこその粘り。彼の成長を象徴するシーンだったといえるでしょう。

 とはいえ、広輔もここまでの道のりは平坦ではありませんでした。

 彼がプロ入りした直後の2014年シーズン。僕はマツダスタジアムでのロッカーが隣だったこともあり、いろいろな相談を受けました。その一つが「打つポイント」でした。

 入団当初、コーチらの指導は「もともと(体に)近いポイントを、前にしたらどうか」というものでした。広輔はこの打撃スタイルが合わず低迷。一時、自らの打撃に迷いながら「廣瀬さん、僕には前さばきの打撃は難しいですよ。どうしたらいいんでしょうかね」とロッカーで悩みながら聞いてきました。

 僕はそのたびにこう言いました。

「コーチは広輔の打撃を少しでも良くしたいと思って指導してくれている。だからこそまずは一度、言われた通りにやってみた方がいい。それで合わなければ変えればいい。失敗しても何か必ず得るものはあるはずだから」

 普段は温厚な性格も、野球に関しては天才肌で頑固な広輔。表情を見れば釈然としない思いがあるのは一目瞭然でした。それでも自らの意思に反し、前さばきの打撃を猛練習。結果的にそのスタイルは合わなかったものの、今ではその時の試行錯誤のおかげでホームベース手前で曲がる変化球にも対応できるようになったのです。

 ここ最近は「投手陣への気配りもすごい」とチーム内でも評判です。投手が打者として凡退した後に迎える打席では「ピッチャーが少しでも次の回に向けての準備ができるように」と初球を見送る「配慮」を心がけているんだとか。

「初球の真ん中直球を見逃すのはどうかと思いますけど、投手の後の打席は…打ちたくても我慢してます。まあ、それも僕の仕事ですからね」(田中)

 チームの主力としての自覚も芽生えてきました。CSでも攻撃の起点として暴れてもらいたいです。 

 ひろせ・じゅん 1979年3月29日生まれ。大分県出身。佐伯鶴城高―法大。大学時代の2000年にシドニー五輪野球日本代表を経て、同年ドラフト逆指名で広島入団。10年に打率3割、ゴールデングラブ賞を受賞。13年にはプロ野球新記録の15打席連続出塁をマークした。16年に現役引退。17年から中国放送(RCC)の野球解説者として活躍中。通算成績は978試合で打率2割7分3厘、51本塁打、253打点。右投げ右打ち。