V10ロードの再始動だ。ソフトバンクが16日の西武戦(メットライフ)に7―3で勝利し、2年ぶり20度目(1リーグ制2度、パ・リーグ18度)のリーグ優勝を決めた。2位西武に14・5ゲーム差をつけての圧巻V。工藤公康監督(54)は2015年に自身が打ち立てたパ・リーグ最速優勝の記録を1日更新したが、そんな指揮官が試合後に流した涙の意味はなんだったのか。

 工藤監督が7度、宙を舞った。その後の優勝監督インタビュー。「正直に言ってホッとしてます」と笑顔を見せると「リーグ優勝を昨年できず、CSで負けてから1年間このことだけを思って…」と語ったところで涙声となり、言葉を詰まらせた。そして目をうるませながら「…1年やってきました。ありがとうございました」と何とか言葉を絞り出した。感極まった指揮官の珍しい姿に、敵地に詰め掛けたホークスファンから大声援が送られた。

「工藤監督のあんな姿は初めて見ました。相当こみ上げてくるものがあったのでしょう」と語るのは、ラジオ中継のため球場を訪れていた本紙評論家の前田幸長氏。巨人時代はチームメートでもあった工藤監督とは現在も交流があるが「基本、弱いところを見せない人。多少のグチを聞かされることはありましたけど、泣いているところは見たことがない。ただ、故障者が続出したときは本当につらそうだった」という。

 V3をかけた昨季は、日本ハムに最大11・5ゲーム差を逆転され、さらにクライマックスシリーズ(CS)でも敗れた。孫オーナーが掲げる「V10構想」をいったん途絶えさせてしまった責任を痛感した工藤監督は、雪辱を期して臨んだ今季、故障者続出に頭を悩ませることになる。

「開幕直後に武田、和田が離脱したときは、さすがにダメかと思いましたけどね。それでもすぐに石川が出てきたり、起用した若手が結果を出してくれたことが大きかった。でも、気が休まるときはなかったんでしょうね。つい先日も『毎年勝つためには、3年後のメンバーを考えてやらないといけないから』と話していました。工藤監督は一軍だけでなく二軍、三軍にも自分の考えをしっかり伝えている。選手の数が増えた今の時代、一軍の監督はあまり二軍や三軍に口を出さない人もいるんですが、そういうところで工藤監督は妥協を許さない。『監督』というよりはむしろ『総監督』。一昔前の『昭和の監督』というイメージがあります」(前田氏)

 そうした思いが今季の東浜の本格化をはじめ、8勝の石川、野手では上林、甲斐と「育てながら勝つ」を形にした。育成の一環として、V戦線の中でも高卒3年目の笠谷、高卒2年目の小沢をプロ初登板させた。

 実際「今年のメンバーで来年もできる保証はない。そのバックアップをどう作っていくかをやらないといけない」とも口にする工藤監督は、選手育成のシステム作りにも本格着手している。

 たとえば、東浜は筋力トレーニングの重要性を理解して急成長した一人だが、次は「野手のものも作らないといけない」。今秋からは“捕手マニュアル”も作るという。フロントからのバックアップも受けながら、常勝軍団作りを進めている。

 工藤監督の提唱する「今までいた人間でも競争に負ければ二軍となる。競争に負けるには負けるだけの結果がある」という競争原理について、前田氏は「普通この選手がいれば5年は安泰とか言いますが、今のソフトバンクの場合は安泰なんてない。次が用意されるわけですから。常に危機感をもってやらないといけない。ベテランだろうが毎年レベルアップを目指さないといけないわけですからね。力が落ちるということは怠っているということ。現役の間は気を抜く時間は一切ないというわけです。強いわけですよ。恐ろしさすら感じます」。

 妥協なき工藤総監督のもと、ソフトバンクの「V10構想」が再びスタートした。

【来季続投を明言】

 ソフトバンクの後藤球団社長兼オーナー代行は16日、工藤監督について「われわれの信頼は揺らぎない。今季以上の結果を出してくれると信じている」と引き続き指揮を執ってもらうことを明言した。工藤監督は今年1月に2019年まで契約を延長している。後藤社長は「優勝は使命だった。選手を褒めてあげたい」とたたえた。