2020年東京五輪での金メダル獲得を最大目標とする新生侍ジャパンの監督に就任した稲葉篤紀氏(44)が7月31日、東京都内で会見に臨んだ。新指揮官は「一番大事にしているのはチームの和、結束力です」と強調し、進路が注目される早実の怪物スラッガー、清宮幸太郎内野手(3年)に関して「いろいろな可能性を含めて見守りたい」と語った。だが、一番の注目は日本球界の宝・大谷翔平投手(23)を東京五輪に呼べるかだ。早ければ今オフにも海を渡る二刀流右腕の招集は稲葉新監督の人徳にかかっている。

 稲葉新監督は就任会見で「3年後の東京五輪は国を挙げての記念すべき大会でもありますし、野球が復活することで、しっかりと金メダルを取りたい」と決意表明した。選手として出場した08年の北京五輪ではメダルを逃し、野球そのものが五輪種目から外れた。今回の就任要請を受諾したのも「東京五輪で野球が復活し、監督という重要な立場の中でもう一度リベンジをさせてもらえる。そこで金メダルを取る喜びをみんなで分かち合いたい」という思いからだった。

 これから3年かけて金メダルを狙えるチームを作る。新指揮官は「若い選手からベテラン選手までバランスの取れたチームを目指したい。僕は全力疾走でやってきましたので、とにかく最後まであきらめない、全力でプレーする熱い選手を集めて、熱い戦いをしていけるようにしていきたい」と理想を語った。

 3年後の代表メンバーを考えた場合、東京五輪開幕時に今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で中軸を担ったDeNA・筒香が28歳で、日本ハム・中田、ソフトバンク・柳田が31歳となる。西武・秋山は32歳で、中堅からベテランの域に差し掛かってくる。稲葉新監督は、21歳で東京五輪を迎える清宮に「非常に素晴らしい選手で、僕の中で興味を持っている選手です。次にどこへ進むのか分かりませんが、スピードに慣れていくのが大事になってくる。そこも含めて、いろんな可能性を含めて見守り続けたい」と期待を寄せるが、中心選手となるにはまだ若い。やはり不可欠なのは、五輪イヤーに26歳というプレーヤーとして最も脂の乗り切った時期を迎える二刀流・大谷だろう。

 日本人メジャーリーガーの招集に関しては、稲葉新監督も「五輪はメジャーは参加されないと思いますので、そこに関しては難しいのかなと思います」という認識。早ければ今オフとなる大谷のメジャー挑戦が実現した場合、シーズン中の五輪への選手派遣を認めていないMLBの管轄下に入ることで東京五輪参加は事実上ノーチャンスだ。

 しかし“抜け道”はある。あるメジャー関係者は「契約時に『20年の東京五輪開催中にチームを離れて日本代表チームに合流する旨』という特約を結べばチャンスは出てくる」と断言した。全てが契約に基づいて進められる米国では、特別な希望があれば契約書に盛り込み、反映させることが何より大事な要素となってくる。

 侍ジャパンを運営するNPBエンタープライズ関係者も「稲葉さんを監督に据えた一つの狙いもそこにあると思う。やはり何といっても東京五輪の侍ジャパンの目玉は大谷翔平しかいない。他の監督では(参加の)動機になり得ないかもしれないが『稲葉さんだから出たい』と本人を突き動かせるのではないか。あとはそれをどう契約に盛り込むかでしょう」と、これに同調している。

 稲葉氏といえば、今年3月のWBC前にも水面下でマーリンズ・イチローの参加を粘り強く説得していた熱血漢だ。一昨年から自らがキャスターを務める報道番組の取材でキャンプ地などを訪れては「若い選手にとっては練習を見るだけでも勉強になる。合宿だけでもいいから来てほしい」と同じ愛知県出身で1歳年上の稲葉氏に一目置くイチローをたじたじとさせていた。この願いがかなうことはなかったが、新監督の持つ人徳、コミュニケーション能力は清宮、大谷ら先の見通せない戦力を確保する編成面でも重要な武器となっていきそうだ。