【大下剛史「熱血球論」】盟主再建へ今、現場にできることは――。巨人は6日の広島戦(マツダ)に5―6で敗れたが、今回の3連戦は2勝1敗で今季初の同カード3連戦勝ち越しを決めた。ただ首位を独走するコイの背中は15ゲーム差とはるか遠く、現状は5位に沈む。優勝が遠くなった厳しい状況下、後半戦に向かう巨人首脳陣へ、本紙専属評論家の大下剛史氏が激辛提言。元広島ヘッドコーチとしてベンチを率いた経験から、高橋由伸監督(42)を支えるコーチ陣へ「捨て石になる覚悟」を求めた。
こんなに弱い巨人を見ているのは、正直寂しい。私は選手、指導者時代を通じて「打倒・巨人」を胸にやってきた。常に憎たらしいほど強かったからこそ、巨人戦は燃えた。
それが今はどうか。主力の多くはピークを過ぎ、若手は線が細く、小粒な選手ばかりだ。プレーに躍動感がなく、かといって、長打が怖い打線でもない。広島との差、現在の順位は必然だろう。野球を少しでもかじった人間から見れば、このチームがすぐに立て直せるほど甘い状況でないことはわかる。
ただ、シーズンはまだ半分。簡単に目先を切り替えられないのが、巨人のつらいところだ。2戦目の試合前、私は由伸監督に冗談で「貯金はいくつあるんだ?」と聞いた。彼は「マイナス10ですかね」と苦笑しながら答えてくれたが、そんな状況でも勝ち続けることを求められるのだから、巨人の首脳陣は大変だ。
私が「周りがうるさくないか?」と聞くと、由伸監督は黙って苦い笑みを返したが、最近は采配への批判も高まっていると耳にする。こんな成績では無理もない。だが、若い指揮官の責任を問うのは尚早だ。覚悟を決めて動くべきは、フロントとコーチ陣であろう。
私が山本浩二監督の下でヘッドコーチに就任した1989年のことだ。チームはベテランが多く、過渡期を迎えていた。当時、あるフロントからかけられた忘れられない言葉がある。「大下よ、頼む。今は勝てんでも、3年目に優勝を狙えるチームにしてくれ。そのために若手を遠慮なく鍛えてくれ」と頼まれた。
現場のヘッドコーチとして、フロントのバックアップは何よりありがたかった。この言葉があったからこそ、これと見込んだ若い選手たちに「胃から汗が出る」と言われたほどの猛練習を課すことができた。優勝した3年目の1991年には、後の中心選手となる野村謙二郎や前田智徳、現巨人打撃コーチである江藤智ら若手が台頭した。そして私はその年限りで、ユニホームを脱いだ。
巨人のフロント陣も「勝て」と言うぐらいはいいが、未熟を承知で若い由伸を監督に据えたのだ。余計な口出しはせず、腹をくくって見守ってやってほしい。一方でコーチ陣には若手育成をしっかりと託すことだ。
その上で、私が見たいのが、村田真ヘッドコーチの覚悟。今年も優勝を逃せば、真っ先に責任問題の矛先が向くことになるだろう。だからこそ、後半戦は“捨て石”になるつもりでコーチ陣に活を入れ、見込みがある選手をえり抜き、徹底的に鍛えまくってほしい。
もう一人、教え子だからこそ、江藤にも言っておきたい。バットを振らせ、ノックを浴びせ、試合前にはヘトヘトになっているぐらいでいい。そこまでしなければ強い選手、核となる選手は育たない。あの時代に広島で汗を流した男なら、それを体で知っているはずだ。 (本紙専属評論家)