夏男がいよいよ本領発揮か。巨人は27日、山形で行われたヤクルト戦に4―3で競り勝ち、連勝を飾った。苦しい試合にケリをつけたヒーローは、長野久義外野手(32)。3―3の7回に決勝3号ソロを放つなど、3安打猛打賞の大暴れだった。つい最近まで打率1割台に低迷し、一時はひどかった右ヒザの状態も、気温の上昇とともに徐々に良化。本来の実力を発揮しつつある。

 ライナー性の打球が右翼方向へ。3―3の7回二死無走者、長野らしい逆方向への本塁打が、激しいシーソーゲームに終止符を打った。

 先制はヤクルト。先発・田口が大引にソロを浴び、ベンチには重い空気が漂った。だが4回に村田の適時打、小林の犠飛で逆転。5回にも坂本の適時打で長野が3点目の本塁を踏み、巨人がリードを広げた。ところがその裏、田口が山田に痛恨の同点2ランを被弾し、試合は振り出しに。再び重苦しいムードの中、長野がひと振りで、チームを勝利に導いた。

 これで8試合連続安打で、打率は2割7分9厘まで急上昇。今月に限れば3割7分7厘の大爆発だ。決勝弾を振り返り「風が吹いていたので上がれば入ると思って。まあ、風です」とかわした長野は、3安打の活躍にも「前半の不振があるので、まだまだ盛り返さないと」と殊勝に語った。

 スランプ中も我慢して長野を使い続けた由伸監督は、主軸の復調に安堵の表情だった。「数字も上がってきているし、安打も出始めた。このまま上げていってほしい」と今後に期待を込めた。

 かつては首位打者、最多安打にも輝いたバットマンが、今季はどん底で苦しんだ。原因はひとつ、古傷の右ヒザ痛の悪化だ。打率1割台に沈んでいた4月中盤。周囲には明かさなかったが、長野は昼夜問わず激痛と闘っていた。

 当時、ある地方都市で長野と居合わせたという飲食店関係者が、驚きのエピソードを明かす。

「その日、長野さんはお仲間を楽しそうに接待しながらも、終始右ヒザが気になるようでした。彼はタイトなジーンズをはいていたのですが、途中で締め付けに耐えられなくなったようで…。なんと右半分だけ太ももの根元から破り捨ててしまったんです。きっと酒を飲まないと眠れないほど、痛かったのでしょう」

周囲があぜんとするなか、長野は「右半分だけB'zの稲葉浩志のような格好」(同)で、グラスをあおり続けたという。

 その後、鹿児島でのヤクルト戦で右ヒザの新たな箇所を故障。首脳陣は長野のチームにおける存在感の大きさから、全体への影響を考慮して一軍に留め置いたが、そんな状態では打棒が上向くはずがなかった。

 それでも、5月中旬以降、気温が上がるにつれ、右ヒザの状態は徐々に回復。江藤打撃コーチが「(右ヒザ痛の)影響はあったと思うけど、今は下半身を使ってボールに入っていけている」と語るように、軸足で踏ん張れるようになったことで、真骨頂の右打ちも復活した。5月16日の時点で1割8分まで落ち込んでいた打率は、気付けば規定打席到達者では坂本、マギーに次ぐチーム3位の2割7分9厘まで上げてきた。

 右ヒザの傷は完全に癒えたわけではなく、本人は「まだまだ」と努めて冷静だ。ただ切り込み隊長で、ムードメーカーでもある長野が躍動すると、チームには勢いが生まれる。これから迎える暑い夏は、背番号7の季節。苦しむチームをどこまで引き上げられるか。