足で稼いで20年 外国人選手こぼれ話 広瀬真徳

 外国人選手を長年取材していると、時に日本人以上に真面目で研究熱心な助っ人に出会うことがある。私が出会った中でその印象が最も強いのが元広島のコルビー・ルイス投手(37)である。

 2008年に来日した彼は1年目から150キロ近い直球とキレのあるスライダーを武器に大活躍した。日本でのプレーはわずか2シーズンだったものの、2年連続で最多奪三振のタイトルを獲得。その後、メジャーに戻りダルビッシュが所属するレンジャーズでも好成績を残したため、日本の野球ファンにもなじみが深いはず。

 そんなルイスのすごさを実感したのは08年オフ。メジャー取材時代から親しかったアレックス・オチョア外野手(45=元中日、広島)に誘われて参加した食事会の席だった。当時私は主にパ・リーグを担当。ルイスの活躍を知っていたとはいえ、人物像までは把握していなかった。ただ、アレックスからはシーズン当初から「人一倍研究熱心な男」と聞かされていたため、「どれほどの研究をしているか」。そんな疑問があった私は食事の席で、直接本人に研究の中身を聞いてみた。

 例えば、セ・リーグの各打者の弱点や苦手球。これらは1年目を終えた時点でほぼ100%見抜いていたようで、ルイスは「主力打者だけでなく、代打や控え選手の情報も頭に入っている。名前を出してくれれば答えるよ」とニヤリ。

 そこで私は試しに、今も現役で活躍する某チームの有名選手の名を挙げ、「彼に弱点はあるのか?」と尋ねた。するとルイスは私にメモとペンを要求。ストライクゾーンを9分割した表の中の内角やや低め部分に小さな黒丸を付けこう語り始めた。

「カウントを追い込んでからここに正確にスライダーを投げれば間違いなく三振は取れる。ただ、ボール1個分でもズレると一発を打たれる可能性もあるけどね」

 真顔で話すルイスがうそを言っているとは思えなかった。それでも、1人や2人の情報なら誰でも言える。信ぴょう性を高めるため、私は続けてあるチームのスタメンを英語で表記。「一人ひとりの弱点を言えるか?」とクイズ形式で尋ねた。すると、彼は一人ひとりストライクゾーンの表に黒丸を描きながら“解答”。攻略法を正確に説明してくれた。

「僕は与えられるデータよりも実際に打者と対戦してその感覚で攻略法をつかんでいくからね。それに、メジャー(計30球団)に比べ、日本はパ・リーグを含めても12球団しかない。その中でもセ・リーグのチームとは何度も対戦するから、メジャーよりは相手の弱点を把握しやすい。どんなに素晴らしい打者でも必ず一つは弱点があるから、そこを正確に突けるかどうかで勝負が決まる。だからこそ、相手を知ることが重要なんだ」

 ヤクルト、巨人、ロッテで活躍したセス・グライシンガー(41=投手)を含め、試合中にメモを取る選手は過去に何人かいた。だが、ルイスのように1年目から研究を重ね、対戦した打者を丸裸にしていた助っ人は皆無に等しい。

 日本での2シーズンで奪った三振は354回1/3を投げ計369個。実に1イニングにつき1個以上の三振を奪った計算になる。実力もさることながら、彼の奪三振率の裏にはこうした努力や研究が隠されていたのである。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。