3月開催のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一奪還を目指す侍ジャパンが窮地に追い込まれた。エースとして期待されていた日本ハムの二刀流・大谷翔平投手(22)が投手としての出場を辞退する意向であることが1日に判明したからだ。小久保裕紀監督(45)にとっては寝耳に水の事態で、日本ハムからの「一方的な発表」には侍ジャパンを運営するNPBエンタープライズ側も不快感を示すなど、本番を前に大混乱している。

 キャンプ視察の初日に昨季のセ・リーグ覇者・広島のキャンプ地である宮崎・日南市を訪れた小久保監督は複雑な心境だったことだろう。この日の朝に米アリゾナ州から「投手・大谷」のWBCへの出場辞退のニュースが飛び込み、しかも事前に知らされていなかったのだからなおさらだ。

 小久保監督によれば数日前の時点で日本ハム側から大谷について「足首の状態も含めて調整が遅れている」との報告を受けていたという。ただ、その後の連絡がないまま「(日本ハムに)一方的に会見を開かれた」ことは予想外の展開だった。

 選手にケガや故障はつきもので、代表メンバーがリタイアすることも想定の範囲内。だが、現場のトップである小久保監督が「詳細を把握していない」という状況下で、エースの離脱が“既成事実”となってしまったことは無視できない。

 栗山監督はキャンプ地の米アリゾナで報道陣に対し、大谷がWBCで投手としてプレーできないことをNPBに伝えてあると説明した。しかし、侍ジャパンを運営するNPBエンタープライズの今村司社長は「どういうニュアンスで、誰が誰に伝えたか把握できていない」と明かした上で、今回のような事態は「侍側から発表するのが筋」と不快感を示した。

 本来ならエースを欠いた状況の中で最優先すべきは代役を誰にするか、追加招集は投手か野手かを含めた戦術や用兵の練り直し。今大会に出場するメンバーの登録期限は今月6日(日本時間7日)で悠長に構えてはいられない。それでも今村社長は「状況を把握することが第一」と、今回の混乱に関する原因究明の重要性を強調した。

 メンバー発表直前に中島が辞退していることから、球界内では日本ハム勢の相次ぐ不参加に“三味線疑惑”までささやかれている。もちろん冗談レベルの話ではあるが、12球団で一致団結して世界一の座を奪還しようという中で、微妙な空気が流れ始めていることだけは確かだ。WBCには、投手を13人以上登録しなければならないというルールがある。仮に大谷を野手として出場させるなら、すでに発表されている野手を誰か落選させて、新たに投手を招集しなければならない。そんな事態になればチームの雰囲気まで悪くなる危険性もある。

 小久保監督は広島から選出した菊池、田中、鈴木とコミュニケーションを図り、緒方監督にもレギュラーシーズンとは異なる守備位置やボールへの対応などについて協力を要請し、快く承諾を得た。この日の視察だけに関して言えば収穫も十二分にあったが、新たに抱えた難題には頭が痛いことだろう。