【越智正典「ネット裏」】昔、勝負師名将、水原茂が「キャンプはプロ野球のお正月」と言ったが、昨年、広島優勝に貢献した野村祐輔も、昨年の阪神のゴールデンルーキー高山俊も、きょう2月1日、“お正月”を迎えた。

 実は、もうひとり、からだはちいさいが、見事なバットコントロールの、社会人野球日立製作所の新鋭4番、菅野剛士も駿台倶楽部(明大野球部OB会、会長土井淳)の功労賞を受賞し決意を新たにしている。

 1月14日、明大駿河台校舎のアカデミーコモンで、明大東京六大学春秋連覇、39回目の優勝と、神宮大会優勝の祝賀会が開かれた。1985年卒菅原良一郎(千厩高)が大雪の岩手県一関から駆けつけて来た。「おふくろがくるみ餠で祝ってくれました」。拓大紅陵時代の監督、小枝守(2016年、U―18アジア選手権優勝監督)最愛の俊英捕手、明大09年卒、JFE東日本主将中野大地がキラキラと目を輝かせていた。来会700人。熱気のなかで開会…。

 明大はいつも祝勝会に選手の高校時代の監督部長を招いている。この日は愛知工大名電高監督倉野光生、佼成学園高監督藤田直毅、成田高監督尾島治信…。

 乾杯、笑顔、歓談。前記三選手がステージに呼ばれた。功労賞の披露である。報道各社カメラマンがステージを囲んだ。

 昨年、16勝3敗で最多勝、勝率第1位投手(8割4分2厘)の広島の野村祐輔から紹介。インタビューが始まった。

 野村が一礼した。そのとき、野村は両手の中指の先までもピーンと伸ばしていた。だらりとしていない。私は、改めて心のなかであっと声をあげた。人間力監督島岡吉郎が偲ばれた。“御大”は一礼したときに必ず指先までも伸ばしていた。あとで星野仙一が「今日あるのは“御大”の教育のおかげです」と言ったが、現監督善波達也は人のかげにいた。頬を赤く染めていた。善波が伝統の教育躾けを続けている。

 昨年、阪神開幕第6戦の3月31日、神宮球場での対ヤクルトの1回表、なんと初球を叩いて新人の先頭打者本塁打で期待どおりにデビュー。秋に新人王に輝いた高山俊に、来賓の横浜隼人高監督水谷哲也は涙ぐんでいた。開幕後、すぐに高山が水谷に挨拶に来たのだ。

「水谷先生、今岡先輩(一平、水谷の教え子、投手、横浜隼人高、明大、東芝)には大変お世話になりました。ありがとうございました」

 星野仙一はステージ前の主賓席のテーブルには着席しなかった。ずうーと下座にいた。1月16日の正式発表の前であったが、だれもが殿堂入り間違いないと思っていた。

 そんな星野を見て69年卒、同級生の斉藤実喜雄(北海高)がたのしそうであった。斉藤は星野を“ハッチャキ”になって支えて来た男だが「星野は下座にいるほうが気が楽なんですよ」。労わりの名セリフである。=敬称略=(スポーツジャーナリスト)