田中正義を攻略した“大根斬り”

2016年12月05日 11時00分

杏林大に打ち込まれた田中(上)

【越智正典「ネット裏」】デビューから猛威、また猛威。プロ野球のスカウトたちを驚かせた、東京新大学、創価大の投手田中正義(ことしのドラフトで5球団が1位で競合。ソフトバンクが獲得)が、去る10月31日、明治神宮大会出場(上位2校)を決める関東地区大学選手権大会で、首都大学代表の桜美林大に打ち込まれて敗れた。

 

 田中正義をいちばんはじめに打ち込んだのは、それまで完敗を続けて来た杏林大である。東京新大学の春のリーグ戦で3点を取り、秋も3得点。秋の対戦は完全なノックアウトだった。

 

 杏林大監督荻本有一に会った。杏林大野球部の野球環境、条件は、多くの大学チームのようには整っていない。困難が多い。大分県津久見高、日大の荻本の人柄で保っている。

 

 誠実な男である。

 

 杏林大は東京新大学リーグでまだ1度も優勝していないが、毎年、全日本大学選手権や明治神宮大会が始まると神宮球場にやって来て、関係者に挨拶後、スタンドの片隅で東京新大学の代表校チームを応援している。

 

 いまはコーチも置かず、ひとりで選手を預かっているので、ことしの関東大学選手権には多分、来られないだろうと思われたが、共栄大の出場が決まっていた大会初日、大会会場の横浜スタジアムにやって来て、大会運営の世話役の神奈川大学連盟の役員にきちんと挨拶している。

 

「田中のピッチングのエッセンスは、すさまじい球速とフォークボールです。このフォークボールに気を取られていると、ストレートがやって来ます。目から遠い外角に低くやって来るストレートは打てません。選手に呼びかけたのです。“低い球は打ってはいけない。ストライクを取られてもいい。みんなで高い球を狙って<大根斬り>をやろう”」。選手たちは“大根斬り”と聞いて湧いた。

 

 最近の大学選手権で上から叩いていたのは、今春青山学院大からオリックスに入団した吉田正尚(2015年秋、東都2部で打撃三冠王)。青山学院大前監督河原井正雄が指導した。「ボールの上を空振りするつもりで振れ」

 

 そういえば、思い出した…。高校野球の夏の甲子園大会へ行けるのは1県1校ではなかった時代、茨城県と千葉県のチームは南関東大会で勝たなければならなかった。戦前、東京六大学、早大の“ハリキリボーイ”浅井礼三を生んだ、成田中(高)のOB、のちの成田市長長谷川録太郎は、後輩が可愛くて、甲子園へ行かせたいと偵察に行った。情報時代ではない。帰って来てから成田高監督、成田山新勝寺の門前町の薬の老舗10代目木内喜右衛門に報告した。

 

「評判の水戸商には必ず勝てる。大丈夫だ。それよりマークしなければいけないのは佐倉一高の長嶋茂雄だ! ヤツの大根斬りは凄いぞ」=敬称略=(スポーツジャーナリスト)

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