人生最大のスランプを味わい気づいた「大リーガーと平均選手の境界線」

2016年10月14日 16時30分

「神ってる」打撃でブルージェイズ打線をけん引するソーンダース(ロイター=USA TODAY Sports)
 元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」

 

【マイケル・ソーンダース外野手(ブルージェイズ)】「初めてメジャーに呼ばれたのが、人生で一番の失敗だった」

 

 ブルージェイズのマイケル・ソーンダースのひと言に一瞬、思考回路が止まった。うれしくなかったのだろうか。

 

「うれしくなかったわけじゃないんだ。もちろん興奮もしてたさ。でも、野球で失敗するということを初めて味わったんだ」

 

 時間を少し巻き戻そう。マイケルはカナダ出身。少年時代からスポーツ万能で中でもアイスホッケーと野球にはまった。

 

「野球でカナダのジュニアナショナルチームの一員になった。世界を旅させてもらって、これが野球のとりこになった一番の理由だと思う。野球がいかに世界中で好まれているかを知ったよね」

 

 国を代表できたこと。訪れた国々の文化の違いを発見できたこと。それら野球が与えてくれる「機会」が自分にとってとても大きかったそう。

 

「どうしても噂に聞く米国の大学野球を経験したかった。レベルが全然違う、すごいっていうから」

 

 能力試しでフロリダの短期大学に通ったが、ふたを開けてみればカナダと変わらなかった。自分の実力に自信をつけ、マリナーズと契約した。

 

 晴れて2009年7月に22歳でメジャーデビュー。ここからが戦いだった。

 

「呼ばれてから最初の100打席ぐらいが本当に苦しかった。全然成績を残せなくて、マイナーとメジャーを行ったり来たり。自分はここにいていいのだろうか。本当に通用するのか。そういう疑問が頭を離れず、ようやく乗り越えてサクセスと言えるようになるまでの数年は本当につらかった」

 

 転機は11年。マイケルは人生で最大のスランプに陥り、メジャーから再びマイナーへ転落。もがいても感覚が戻らない。実はこの年、母を乳がんで亡くしていた。シーズン中であったため母の死と向き合えなかったこともスランプの一因だったのかもしれない。母だけでなく野球も失いそうになって、マイケルはあることをやめた。

 

「失敗する自分を責めるのをやめたんだ。何があっても野球を楽しむって自分と約束した。自分に失敗する許可を与えたら、初めてうまくなっていくことができたよ」

 

 どん底まで落ちた時も「4打数0安打でも、世の中で起こっていることに比べたら大して悪いことではない」と思えるようになったという。

 

「メジャーリーグが大きく違うのは、不屈の精神を持てるかどうか。メジャーというレベルで、4万人の前でパフォーマンスをしなければならないプレッシャー。もう、成長のために野球をやっているのとは違う。チームは生産性、勝利を求めているんだ。ここを越えられるかどうかが、メジャーリーガーと平均的な選手の境界線だと思う」

 

 ワイルドカードをもぎ取ったブルージェイズは地区シリーズでレンジャーズ相手に3連勝を飾り、リーグ優勝決定シリーズへ進出。チームメートとシャンパンファイトを味わったソーンダースは今、最高に充実している。

 

 ☆マイケル・ソーンダース 1986年11月19日生まれ。29歳。カナダ・ブリティッシュコロンビア州ビクトリア出身。右投げ左打ち。193センチ、102キロ。2004年6月のドラフトで指名されたマリナーズに入団。08年8月、北京五輪のカナダ代表に選出される。09年7月25日、インディアンス戦でメジャーデビュー。12年シーズンから中堅手としてレギュラーの座をつかみ、自己最多の139試合に出場。13年の第3回WBCではカナダ代表に選出。15年シーズンからトレード移籍したブルージェイズでプレー。今年の球宴には「34番目の男」として初出場した。