【伊勢孝夫「新IDアナライザー」】阪神が20日のオリックス戦(京セラドーム)を4—2で制し、オープン戦単独首位に躍り出た。4年ぶりに復帰した藤川球児投手(35)が先発で万全の調整を見せれば、ドラフト1位ルーキー・高山俊外野手(22=明大)も開幕スタメンを決定させる大活躍。25日のシーズン開幕が注目されるが、そんな金本阪神にヤクルト、近鉄などでコーチを務め、優勝に導いてきた“名伯楽”で本紙評論家の伊勢孝夫氏が虎の11年ぶりのリーグ制覇のための“3か条”をぶち上げた。

【V条件1=「捨て試合」を作れ!】就任1年目とあって金本監督は「劣勢でも諦めずに戦う姿勢」を見せたいと思っているかもしれない。確かにビハインドをひっくり返しての逆転勝ちはチームに勢いを与えることもできる。しかし、143試合というシーズンの疲労度を考えれば優勝は難しくなってしまう。思い切って捨てる試合を作ることも必要だ。

 かつて私がヘッドコーチを務めていた2001年の近鉄は防御率が4・98とリーグ最低の数字で優勝した。これは徹底して捨て試合を作ったから。先発投手が3回までに打ち込まれると小林繁投手コーチが「今日、捨ててもいいですか」と言ってきて先発投手をそのまま終盤まで投げさせた。当然、調子が悪いからさらに打たれて点差は広がる。チームの防御率も悪くなる。私は最初「まだ3回やぞ!」と驚いたものだが、これで他の投手の負担を軽減できたことで接戦のときに力を発揮することができた。

 12球団のなかでも熱狂的なファンが多い阪神のなかで「捨て試合」を作ることは難しい。だが、すべての試合を勝ちにいっても優勝することはできない。最重要であるリーグ制覇に向けて、金本監督がそうした采配をできるか。最高の結果をファンに見せるためにも時として試合を捨てる勇気がいる。ブーイングや批判を浴びようがそこは心を鬼にすることが必要だ。

【V条件2=「銀行チーム」を開拓せよ!】野村政権でのコーチ時代、リーグ制覇した1993年のヤクルトは横浜(現DeNA)を大得意にし、結果として22勝4敗と大きく貯金した。当時は皮肉交じりに「横浜銀行」などと言ったりしたが、優勝する上では大きく勝ち越せる“お客さん”を作ることが大事。チーム状態が悪いときでもこうしたチームがあることで息を吹き返すこともできる。

 今年なら、そのターゲットは中日と広島になるだろうか。中日は世代交代の過渡期で戦力的に不安がある。広島は絶対的エースだった前田健太が抜け、その穴を埋めるはずの大瀬良もケガで出遅れている。こうした大きな不安を抱える2チーム合わせて貯金を「15」ほど作ることができれば、残りの3チームに、それほど勝ち越せなくても優勝をたぐり寄せることができる。

 そのためには標的となるチームのエースを打つことだ。相手のエースが登板のときに負けてしまえば、3連戦でも最大で「1」しか貯金はできない。中日ならば大野、広島ならばジョンソンを徹底的に分析して攻略し、“銀行”にしなければならない。

【V条件3=理想の打順はこれだ!】金本監督は打順に頭を悩ませているようだが、長くコーチ業をしてきた私の考える理想の打順のひとつは「1番・高山、2番・西岡、3番・鳥谷、4番・ゴメス、5番・福留、6番・ヘイグ、7番に横田か大和、8番・岡崎」だ。当初「2番・鳥谷」を推奨したが、今の阪神では鳥谷、福留、ゴメス以外に3番を任せられる選手が不在。明らかに日本野球に適応し切れていないヘイグを3番に置くのは本人の重圧になってしまう。そのため鳥谷に3番を任せるしかない。

 ルーキーの高山は、自分の形を持っていてチャンスメークもポイントゲッターもできる逸材だ。オープン戦で存在感を発揮している横田は左投手への対応に疑問が残る。名前やオープン戦の成績だけにとらわれずに考えることが必要だ。

(本紙専属評論家)