第104全国高校野球選手権大会最終日は22日、甲子園球場で決勝が行われ、仙台育英(宮城)が下関国際(山口)を8―1で下して初優勝を遂げた。春夏通じて東北勢の甲子園初制覇となり、エンゼルス・大谷翔平投手(28)やロッテ・佐々木朗希投手(20)らの怪物を輩出した〝みちのく野球〟に新たな歴史が刻まれた。


 歴史が動いた背景には――。過去準優勝2度の仙台育英が〝シルバーコレクター〟を返上した。

 試合巧者ぶりを発揮して投打に圧倒した。わずか4球で4回の守りを終えると、直後の攻撃で4番・斎藤陽の右前適時打で先制。5回は二死から2本の適時打で2点を追加した。6回に1点を返されるも、7回は岩崎の満塁弾などで5得点。大阪桐蔭、近江を撃破して終盤に強い下関国際の反撃の芽を完全に摘む試合運びだった。投手陣も先発・斎藤蓉が7回1失点の好投で、2番手の高橋も2回無失点。U18日本代表のエース・古川ら強力な駒をベンチに置いたまま勝ち切った。徹底した体調管理、データに基づく須江監督の緻密な野球で日本一をつかんだ。

「100年開かなかった扉が開いた」。須江監督はそう言って悲願成就にうれし涙を浮かべた。1世紀以上かかった優勝旗の「白河の関越え」。OBや地元関係者らは、東北の「野球熱」の高まりを背景に偉業の瞬間を待ちわびていた。

 一塁側アルプス席には佐藤世那(元オリックス)ら7年前の準優勝メンバーが駆けつけていた。さらには大越基(元ダイエー、山口・早鞆監督)を擁した1989年の準V戦士の姿もあった。その一人で現OB会長の高橋宗一郎さん(50)は「時代を変えてくれた」と後輩に感謝。長く母校や東北勢の挑戦を見守ってきたOBは、東北人の視点で偉業を受け止めていた。「今、野球界をけん引しているのは東北出身の選手。大谷翔平君、佐々木朗希君の存在は岩手だけでなく、東北6県の子供たちに大きな影響を与えていると日頃感じています。小中学生も含めて今の子たちからは、同じ東北人としての誇りとともに『自分たちも』というのをすごく感じます」。

 さらに高橋さんはフランチャイズ球団の存在も挙げた。「震災の後すぐ(2013年)に、楽天が田中将大選手らの活躍で日本一になった。東北全体を一つにした、あの出来事も地域の『野球熱』を高めるきっかけになったと感じています。そういう流れも東北の競技力向上につながっているような気がします」。

 今回、仙台育英のベンチ入りメンバーは18人中16人が東北出身者だった。昨今「野球離れ」が叫ばれる中で、貴重な野球熱の醸成――。新進気鋭の指導者に導かれ、熱を帯びた東北の球児たちが歴史の扉を開いた。