ソフトバンク・王貞治球団会長が、20日に82歳の誕生日を迎えた。昨年10月に孫オーナーからの強い要請を受けて「特別チームアドバイザー」の肩書を加え現場復帰。よりグラウンドレベルで選手や首脳陣たちと密なコミュニケーションを取っている。

 覇権奪回と世代交代を推し進める球団にあって、王会長の動きは精力的だ。現場では若手への技術指導はもちろん、いま一つ殻を破り切れない中堅や有望選手に思考や心構えといった〝結果の出し方〟をレクチャー。勝つために、選手を大成させるために、自身の現役時代の経験に基づいた「王イズム」をこれまで以上に踏み込んで注入している。

 年齢を感じさせない体力で、常勝軍団をけん引する王会長。シーズンが始まれば、どうしても一軍の戦いに目は向きがちだが、今年、王会長は人知れず筑後ファーム施設を頻繁に訪れている。二軍や三軍で爪を研ぐ若手の成長を見届けることはもちろんだが、筑後には故障に悩まされ再起をかけるリハビリ組の選手たちも多い。

 かねてホークス首脳陣などから「ウチの選手は筑後のリハビリに行くと、なかなか帰ってこなくなるのはどうしてなのか」といった嘆き節が聞こえてきた。もちろんケガの完治は絶対だ。治りの遅い早いを周囲が客観的に感じても、それは本人にしか分からない感覚であり、周りが指摘しにくいものでもある。一方で現場には「誰かが背中を押してやらないと前に進めない選手もいる」という声も多かったが、いま、まさにその役を王会長が買って出ている。

 王会長は春先からたびたびリハビリ中の選手に個別に声をかけるシーンがあった。チーム関係者は「会長は『どこかで踏ん切りをつけて前に進まないと野球人生は終わってしまう』『どこも不安なく満足に野球をやっている人間なんて一人もいない』といった話を選手にしているみたいです」と明かす。痛みにも強いのが一流。〝アピールチャンスに戦場にいなければ勝負にならない〟。そんなメッセージを再起をかける選手たちに送っている。

 開幕直後に栗原が左膝前十字靱帯を断裂し、18日には上林が右アキレス腱を断裂。長期離脱の間、心が折れそうなリハビリが続くはずだ。優しいまなざしで、時には厳しく――。選手にとっても、現場、球団にとっても王会長の存在は頼もしい。