まさに〝夫婦愛〟のたまものだ。ソフトバンク・東浜巨投手(31)が11日の西武戦(ペイペイ)で、プロ野球史上84人目(95度目)のノーヒットノーランを達成した。球団では2019年の千賀以来で3人目。沖縄出身者では初の快挙だ。2四球は出したが、いずれも次打者を併殺打に料理。わずか97球、打者27人で片づけ、チームを7連勝に導いた快投の裏には正妻・甲斐拓也捕手(29)との二人三脚があった。

 最後の打者、金子を追い込んだ東浜は甲斐のサインに2度首を振って150キロの直球を投げ込んだ。打球はグラブをかすめたが、二塁手の三森が処理して試合終了。97球でノーヒッターを成し遂げたヒーローは「こんなに気持ちのいい疲れは久しぶり。まさか自分ができるとは思いもしなかった。信じられないです」と大粒の汗を拭った。

 試合後、右腕が最も言葉に力を込めたのは快挙の要因について聞かれた時だった。

「一番は常にコミュニケーションを取って、試合の中で話しながらやっている拓也のリードが大きかった。ずっと一緒にやってきているし、いい時も悪い時もどっちも経験しながらやってきたので、拓也と取ったノーヒットノーランでもある。今日も拓也に引っ張ってもらいながら、要所では自分がこうしたいと押しながら。そういう駆け引きみたいなコミュニケーションがうまく取れたというのが一番大きいかなって僕は思います」

 16勝で最多勝に輝いた17年に〝永遠の愛〟を誓った。その年、甲斐は103試合に出場してレギュラー捕手へと駆け上がったが、その裏には東浜の支えがあった。そのリードが問題視され、首脳陣がコンビ解消を議論しても、東浜は「僕は絶対に拓也と離婚しません」と〝離縁〟を拒否。それどころか甲斐を擁護し、バッテリー解消危機から6連勝した。東浜と組むことで甲斐の出番は保障され、登板した全24試合をともに歩んだ。

 濃密な〝夫婦物語〟を見守った当時ヘッドコーチの達川光男氏は、のちにこう語っていた。

「拓也は巨に救われた。千賀(専属)だけじゃ、多くの経験は積めなかった。その後の拓也の野球人生が大きく広がったのは巨のおかげ。だから拓也はものすごく巨に恩義を感じとる。これからは甲斐が巨を助ける番。投手も年を重ねるごとに壁に当たるし、勝てない時期も出てくる。そういう時に、もうひと踏ん張りできる好投を引き出してやるのも捕手。2人は本当にいいバッテリー」

 東浜は17年のタイトル獲得後、故障に泣かされるなど苦難の連続で、規定投球回、2桁勝利から遠ざかった。東浜は来月20日で32歳になる。プロ人生の折り返し地点に差しかかったところでのノーヒッター達成。達川氏の予言通り〝分岐点〟となるはずだ。

 球団3度目の快挙のうち、捕手として2度も関わった甲斐は「本当に巨さんの力が全て。素晴らしいピッチングをしてくれました。巨さんの力がノーヒットノーランとチームを勝ちへと導いてくれたと思います」とコメントした。苦楽をともにしたバッテリーは強い。